TRENDIA CLASSIC

若狭春鯖のなれずし

北大路魯山人

1 / 2

さばずしはなんと言っても古来京都が本場である。それというのも、日本一の称をもってなる若狭小浜の春秋のさばを主材としてつくられているからである。さばは若狭が第一、次に関西ものにかぎると言うのは、私の独断ばかりではない。由来通人の定評するところである。

全く伊勢湾から東方の海となると、美味いさばの漁獲は望み得ない。東京市場で手に入る近海さばは、一種嫌悪すべき妙な臭気をもっていて、関西もの、あるいは若狭もののような好ましさというものがない。京、大阪の市場に見参するさばに比しては段違いのやくざものである。しかるに、その大阪にも見るを得ないのが若狭小浜のさばである。とても下魚とは思えないまでに上品な小味をもち、一度口にしたら忘れがたい風味をもつ美肴である。

〆さばにして刺身代りにするなどは、食い方の絶頂である。すしはもちろんのこと、大根を短冊に切り、さばの切り身といっしょに船場汁にするもよし、焼き魚として賞味するもよい。いずれにしても後口の味わいに深い印象を残す力を持っている。さばを語らんとする者は、ともかくも若狭春秋のさばの味を知らねば、さばを論じるわけにはいかない。春と言っても、三月ものは未だチト尚早であるが、四月ものは脂の乗り塩梅が申し分なくたまらない。

北大路魯山人の他の作品