小ざかな干物の味
本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
熱海や興津など各地の干物の特徴や味の真髄を綴る。あじ・かれい・あまだい・きす・うるめといった多種多様な魚介について、土地ごとの製法や風味、食味の差異を詳述する。単なる食材紹介にとどまらず、浜風や気温がもたらす干物の完成度や、松葉がれいのような希少ゆえの価値、クサヤの独特な妙味など、食通の視点から干物という食文化の奥深さを描き出す。四季折々の食卓に欠かせない干物の真価を、体験に基づいて論じる一編である。
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干ものの美味いのに当ったよろこびは格別である。ことに中干しとか、生乾しとか言った類いの最上物に当るうれしさは、筆に尽しがたい。東京近くで言うと、熱海の干ものがなかなか評判だ。もともと熱海の漁場に揚がるあじ・いか・かれい・あまだいなど、さかなの種類も相当のものだが、干上がりの条件として、もってこいの浜風と気温に恵まれている点が、味をよくする最大原因となっているらしい。干ものの完成、これには気温と浜風の和合がなにより肝心だ。
干ものは朝食に適するところから、熱海では朝食の膳の一部に必ずと言ってよいほど干ものを添えて、自慢することを忘れていない。
ところが近頃では、浴客の数に反比例して漁獲量が不足し、ときには場違いの魚類が加わるのみか、雨天などには、乾燥機がどんどん仕上げるものもあるらしいから、評判通りのものが、いつでも手に入るとはかぎらない。あじ・かれい・うるめ・きす・あまだい、いずれも本格の干し加減で食わしてくれるとすばらしく美味い。だが、中干し干ものというものは、今日美味かったからと言って、それを翌日に残し、前日のよろこびを繰り返そうと思っても、先通りの美味さが得られるとはかぎらない。まあ、その場きりの美味さと覚えておけば、まちがうことはない。
あまだいの干もの、これは乾し切ったものが特殊な味を持ち、素敵な美味さを発揮している。興津の浜でも乾しているが、これも最高の干ものとしての権威を充分に持っている。あまだいを上方ではぐちと言って、若狭小浜産を第一と称賛しているが、ぐちとやなぎがれいだけは、むしろ興津地方が優っている。
ただ興津のあまだいは若狭ものに較べて、ウロコが食えない恨みがある。ウロコごと焼いて食べるあまだいは、また格別の風味を持つものであるが、興津にはそれが期待できない。