TRENDIA CLASSIC

蝦蟇を食べた話

北大路魯山人

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山椒魚は手に入れるのが困難だが、反対にいくらでも手に入るもので、しかも、滅多に人の食わないもの、それでいて、相当の珍味を有するものと言えば、日本の蝦蟇だろう。

ひと頃、食用蛙というものが流行して、非常に美味いもののように言われたが、食用蛙などよりは蝦蟇の方が、よほど美味い。しかし、このことを知っている者は、案外少ないようである。

私がはじめて蝦蟇を食ったのは上海であった。ある料理屋に入ってみると、蛙の料理が特別に大きく書いて貼り出してあった。大田鶏と大書して貼り出してあったところをみると、中国でも蛙の料理は珍しい料理か、少なくとも呼びもの料理であったに違いない。さすが中国だけに面白い字を使う。田の中の鶏とはうまい表現である。

これは珍しいと思ったので、早速注文した。すると大丼に一杯持って来た。煮たもので薄葛がとろりとかけてあった。一体中国料理というやつは、いずれも大袈裟で量の多いものであるが、このときも御多分に洩れなかった。いくら美味くても、こんなには食えまいと思ったが、いざ食ってみると、非常に美味いので、とうとうみな平げてしまった。

それから、どんな蛙だろうと思って、みせてもらったが、日本の蝦蟇をやや小振りにしたくらいの大きさで、色は赤味がかっていた。いわゆるアカヒキという種類である。シュンは冬眠の時期であろう。私が食ったのは、五月で産卵後であったかと思うが、それでも非常に美味かった。

ところが、美味も美食も、意のない者には縁がないもので、中国に十年も住んでいるとか、またはたびたび中国を訪問したりしているが、いわゆる中国通にかぎって蛙を食わしていることを全く知らないものが多い。蛙が美味いと私が話をすると、そういう連中が知らないものだから、びっくりして、「ほんとうか」などと不審がる。初めて上海へ行った新参者の私が、そういう古強者の中国通たちを案内して、蛙料理を食わしてやると、いずれの面々もその美味に驚嘆した。

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