喪のある景色
うしろを振りむくと
親である
親のうしろがその親である
その親のそのまたうしろがまたその親の親であるといふやうに
親の親の親ばつかりが
むかしの奧へとつづいてゐる
まへを見ると
まへは子である
子のまへはその子である
その子のそのまたまへはそのまた子の子であるといふやうに
子の子の子の子の子ばつかりが
空の彼方へ消えいるやうに
未來の涯へとつづいてゐる
こんな景色のなかに
神のバトンが落ちてゐる
血に染まつた地球が落ちてゐる
[#改見開き]
世はさまざま
人は米を食つてゐる
ぼくの名とおなじ名の
貘といふ獸は
夢を食ふといふ
羊は紙も食ひ
南京虫は血を吸ひにくる
人にはまた
人を食ひに來る人や人を食ひに出掛ける人もある
さうかとおもふと琉球には
う※[#小書き平仮名む、13-4]まあ木といふ木がある
木としての器量はよくないが詩人みたいな木なんだ
いつも墓場に立つてゐて
そこに來ては泣きくづれる
かなしい聲や涙で育つといふ
う※[#小書き平仮名む、13-9]まあ木といふ風變りな木もある
[#改見開き]
疊
なんにもなかつた疊のうへに
いろんな物があらはれた
まるでこの世のいろんな姿の文字どもが
聲をかぎりに詩を呼び廻つて
白紙のうへにあらはれて來たやうに
血の出るやうな聲を張りあげては
結婚生活を呼び呼びして
をつとになつた僕があらはれた
女房になつた女があらはれた
桐の箪笥があらはれた
藥罐と
火鉢と
鏡臺があらはれた
お鍋や
食器が
あらはれた
[#改見開き]
炭
炭屋にぼくは炭を買ひに行つた
炭屋のおやぢは炭がないと云ふ
少しでいいからゆづつてほしいと云ふと
あればとにかく少しもないと云ふ
ところが實はたつたいま炭の中から出て來たばつかりの
くろい手足と
くろい顔だ
それでも無ければそれはとにかくだが
なんとかならないもんかと試みても
どうにもしやうがないと云ふ
どうにもしやうのないおやじだ
まるで冬を邪魔するやうに
ないないばかりを繰り返しては
時勢のまんなかに立ちはだかつて来た
くろい手足と
くろい顔だ
[#改見開き]
思ひ出
枯芝みたいなそのあごひげよ
まがりくねつたその生き方よ
おもへば僕によく似た詩だ
るんぺんしては
本屋の荷造り人
るんぺんしては
煖房屋
るんぺんしては
お灸屋
るんぺんしては