質札
本文約1,500字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
知らない人からの手紙を装った質屋からの流質物御通知を受け取った著者が、返済に窮する苦悩を綴る。女房の着物を質に入れ二十三カ月も利子を支払えない中、質屋と結んだ紳士協定に縋り付くことで、過酷な借金生活を生き抜こうとする。質札の書き換えや印税による利子の支払いを通して、質屋との複雑な関係を維持しつつ、借金という生きることの辛さとそれに向き合う日常の葛藤を淡々と描き出す。
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たまに、知らない人から手紙をもらったりすることがあるので、またかとおもって封を切ってみると、なかから出たのは「流質物御通知」なのであった。
「なにひとつ買って着せることも出来ないくせに、流れたらどうするんです。」と女房がいった。むろんぼくだって、女房ののぞみ通りに、一枚や二枚ぐらいの着物など買って着せてやりたいとおもわないでもないのであるが、実際の生活は、そういうことも出来ない事情なので質屋ののれんもくぐらなくてはならないわけである。ぼくは、質屋に寄って、「絶対に迷惑はかけないから。」と、利子の未払いのいいわけ旁々、流さないようにと念を押してたのむと、質屋も「では待ちましょう。」ということになったのである。しかし、その後も二度ばかり、「流質物御通知」を受けたにもかかわらず利子も入れることが出来ないで質屋と女房との板ばさみになって困っていると、こんどは葉書を寄越して「先日来御約束致しました紳士協定の件如何なさいますでしょうか。」と来たのである。
紳士協定というのは、絶対に迷惑はかけないからといったぼくの言葉などを示しているわけであるが、葉書で寄越されたことは、折角こちらが人目をしのんでやっている質屋通いを、世間の眼の前にさらけ出されたようで、なんとなく隣り近所にもきまりがわるく、郵便屋さんにもきまりわるいおもいをするようになってしまったのである。
「いい恥さらしですよ。」と女房はいいながら箪笥のひらきから質札をとり出して来た。質種は、女房の御召の単衣物と呂縮緬の羽織である。借りた金は二〇〇〇円で、二十三カ月も前に入質したまま、一度も利子を入れてないのだ。利子はすでに元金の二倍以上にもなっていて四六〇〇円。これを受け出すには、六六〇〇円なのである。こうなるといっそのこと、流した方がさっぱりするとおもわぬでもないのだが、こちらが頼んで結んだところの紳士協定のことや、女房の身になって考えたりしてみると、ぼくだけさっぱりするわけにもいかないのだ。