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TORENDIA

歳末の質屋

本文約2,000字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

画家のK女史、記者のT氏と著者は、師走の街にあるのれんを掲げない質屋を訪れる。若主人に案内され、コンクリート造りの倉で預かり物の現状や、ミシンや背広といった品々の背景、さらに質屋の経営や税制の実情を見聞する。本書は、庶民の暮らしに根ざした質屋の日常を淡々と綴り、そこから見えてくる経済的な格差や社会の矛盾についてを論じる。

山之口貘

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🎧 歳末の質屋 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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画家のK女史と記者のTさんとぼくとが、車に同乗。灯のついたばかりの師走の街のざわめきを縫って、城南のとある坂の上で車を止めた。ぼくらは坂の途中の電柱に掲げられている矢印の示す露地にはいった。「そろそろベレーなど、ポケットにおしこんでおきましょうかね。」するとTさんも、「そうだそうだ。」というわけで、ぼくとTさんは頭のベレーをポケットに移したのである。

それはこの質屋に現われる客達のふん囲気に邪魔にならないようにとのこころがけなのだ。

板ベイに沿うて一寸行き、木戸を開けて、玄関を開けると、客は、まだ一人もいなかった。来意のほどは、あらかじめ電話しておいたので、玄関に出て来た女の子も承知していたらしく、すぐに座敷へ通してくれた。

ぼくの知っている限りでは、木戸にも玄関にも、のれんのかかっていない質屋はこの質屋だけなのである。そこで、T氏が、その理由を若い主人にきくと、先代からずっとのれんはかけていないそうで、「なにしろ世間では、のれんをくぐるのがいやだと言いますからね。」とのことだ。

ぼくなども、くぐり馴れているみたいだが、それでも、うしろを気にし、左を気にし、右を気にして、さっとくぐったりしたのが常なのだ。

この質屋さんは、四十五年もつづいているのだそうで、欄間には犯人検挙によく協力してくれたという意味のその筋の表彰状が、三つ額になってかかっている。お店が忙がしくならないうちにと、倉のなかを案内してもらった。倉は二階建てで、壁はコンクリート。四段五段の棚が、まんなかとぐるりの壁にめぐらされていて、床は高い。預った品物の保存には、タトウの包紙が虫がつかなくて一番よいそうで、一尺二寸四角ほどの形に包まれた品物が、棚いっぱい詰っているのである。

どれもこれも、保存に耐えるように、くるんだり包んだりしてあるので、なかみは見えないのであるが、梯子段の下にごろごろ並んでいるのがあるので、なにかときくと、「ミシンの頭です。」とのことである。

それではどこかの家庭で、頭のないミシン台を見かけた覚えもあるが、頭はみんな質屋の倉の梯子段の下で静養しているのかと思わずにはいられないのだ。

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