鮪に鰯
本文約26,200字 ・ 読了時間 約53分
あらすじ(AIが作成しました)
山之口貘の詩集『鮪に鰯』は、日常生活の風景や家族との交流、社会的な事象に対する詩人の視点を綴る。詩人は、自身の存在、戦争の記憶、貧困や移住といった社会問題を、諧謔や淡々とした語り口で捉える。家庭内での女房とのやり取りや、詩人としての生き様、また周囲の人々の独特な個性を描くことで、何気ない日常の背後にある哀歓を浮き彫りにする。詩を書くことそのものが生活と分かちがたく結びついている詩人の日常の断片を収める。
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野次馬
これはおどろいたこの家にも
テレビがあったのかいと来たのだが
食うのがやっとの家にだって
テレビはあって結構じゃないかと言うと
貰ったのかいそれとも
買ったのかいと首をかしげるのだ
どちらにしても勝手じゃないかと言うと
買ったのではないだろう
貰ったのだろうと言うわけなのだが
いかにもそれは真実その通りなのだが
おしつけられては腹立たしくて
余計なお世話をするものだと言うと
またしてもどこ吹く風なのか
まさかこれではあるまいと来て
物を掴むしぐさをしてみせるのだ
[#改ページ]
ひそかな対決
ぱあではないかとぼくのことを
こともあろうに精神科の
著名なある医学博士が言ったとか
たった一篇ぐらいの詩をつくるのに
一〇〇枚二〇〇枚だのと
原稿用紙を屑にして積み重ねる詩人なのでは
ぱあではないかと言ったとか
ある日ある所でその博士に
はじめてぼくがお目にかかったところ
お名前はかねがね
存じ上げていましたとかで
このごろどうです
詩はいかがですかと来たのだ
いかにもとぼけたことを言うもので
ぱあにしてはどこか
正気にでも見える詩人なのか
お目にかかったついでにひとつ
博士の診断を受けてみるかと
ぼくはおもわぬのでもなかったのだが
お邪魔しましたと腰をあげたのだ
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弾を浴びた島
島の土を踏んだとたんに
ガンジューイ(1)とあいさつしたところ
はいおかげさまで元気ですとか言って
島の人は日本語で来たのだ
郷愁はいささか戸惑いしてしまって
ウチナーグチマディン ムル(2)
イクサニ サッタルバスイ(3)と言うと
島の人は苦笑したのだが
沖縄語は上手ですねと来たのだ
(1) お元気か
(2) 沖縄方言までもすべて
(3) 戦争でやられたのか
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桃の花
いなかはどこだと
おともだちからきかれて
ミミコは返事にこまったと言うのだ
こまることなどないじゃないか
沖縄じゃないかと言うと
沖縄はパパのいなかで
茨城がママのいなかで
ミミコは東京でみんなまちまちと言うのだ
それでなんと答えたのだときくと
パパは沖縄で
ママが茨城で
ミミコは東京と答えたのだと言うと
一ぷくつけて
ぶらりと表へ出たら
桃の花が咲いていた
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核
もうお年ですからと言えば
なにをこの青二才がと