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TORENDIA

緑の種子

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

北原白秋の詩集『緑の種子』は、日常生活の風景から異国の情景、そして人の内面にある憂愁や孤独までを詩情豊かに描き出す。感覚的な色彩や光の描写を重ねることで、種子や映画に映る棗の樹、ペンギン、あるいは人食う人々の姿を映し出し、移ろいゆく季節や過ぎ去った時間の断片を追う。本書は、生と死、愛と悲しみという人間の根源的な情感を、精緻な言葉の連なりによって叙情的に綴る。

北原白秋

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🎧 緑の種子 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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緑の種子

種子はこれ感覚の粋、

緑は金の陰影にして、幽かに泣くはわが心。

種子を哀しめ、よきひとよ、

冷たく、小さき芥子のたね、その一粒に心せよ、

歔欷けかし、日の光。

種子はこれ霊魂の粋、

生ける宝石、「時」の秒、金と緑の夜の秘密、

淫慾の芽の潜伏所、

阿片の精。

種子を哀しめ、よきひとよ、

緑は色の粋にして、

智慧と不思議と生滅の見えざる悲劇、

万華鏡。

消え去り難き幽霊の

芥子の緑に泣くごとく、

裏切したる歓会の醒めて哀しきわが心。

種子を哀しめ、よきひとよ、

歔欷けかし、日の光。

四十五年八月

棗の樹

映画の中に一本の棗の樹あり。 以太利の街なれば日の光黄色なりけり。 棗には実ありき、その実いと赤かるべきも、 ただ黄にかがやきて影を落せり。

急がしきシネマトグラフの中なれば、誰とわかねど突拍子もなく現はれて気狂のごと 自転車乗の若紳士走り廻れり、 何時までも何時までも銀の輪の走り廻れり。

うしろに宝石商の飾あり、舗石あり、樹の反射あり。 黒く優しき貴夫人も過ぎゆきにけり。 棗はかがやく。その男走り廻れば 愚かや乗れるその車輪慄へつつ縮まりてゆく。

悲しくわかき男かな、ワイシヤツに鼻眼鏡して、 突き当り、跳ねころべども起き直り、走り廻れり。 尻振りざまのをかしさよ、そのペタル縮まりて玩弄品のごとく 今は早や踏むにも堪へね、ひたぶるに走り廻れり。

棗はかがやく。サンドウヰツチ売の爺は驚く。 悪戯小僧は栗鼠のごと木にかけのぼる。 銀の輪は走り廻れり――ありとある、頓狂に戯けたれども、 ただにわが憂愁の外にのみ急がしく瞬きにけり。

映画の中に一本の棗の樹あり、 以太利の街なればその実いと黄色なりけり、 棗は光りき、されども影の影なればある甲斐もなく 見る人の心に耀やきて、また倏忽に消え失せにけり。 大正元年九月

人食ふひと

こはそもいづくの空なるや、

はた何時なりや、誰なるや、

人食ふ人ら背も矮く

ひそと声せず、身じろがず。

蹲みて嗅ぐはなにごとか、

はた、なになれば眼も狭く

地の一点を凝視むらむ。

銀鐘のごと日は光る。

青き波紋の刺青に

あくまで黒き頬は青く、

裸の腕に一枚の

皆朱の布をひきかつぐ。

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