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TORENDIA

髪の毛

本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分

あらすじ(AIが作成しました)

井口は妻の文子にズボンのポケットを点検され、嘘をついていると疑いをかけられる。この行動は、仲人の中川の妻による助言が発端となっていた。一方、会社では独身の秋月が夫婦仲を揺さぶるいたずらを画策する。秋月は酔った中川と井口の白シャツに芸者の髪の毛を絡ませる。翌朝、中川は妻から浮気の証拠として髪の毛を突きつけられ激しい追求を受けるが、同僚による悪戯だと判明し騒動は収束する。井口も同様の罠に陥っていると懸念し、中川は事態の確認へ向かう。

佐々木邦

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🎧 髪の毛 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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或朝、井口君は出勤の支度にかゝった時、ズボンが見当らなかったので、白シャツのまゝ、

「おい/\」

と細君を呼んだ。

「はあ」

「ズボン/\」

「あら、私、忘れていました」

と細君の文子さんは次の間からズボンを提げて来て、

「ポケットに穴が明いていましたから、繕って置きましたの」

と弁解しながら差出した。

「然う/\。右の方だったね」

と井口君は、こんなことに一々お礼を言う時期はもう過ぎていた。寧ろ有るべきところになかったのが不足で、叱言が口元まで出ていたが、相当の理由があったから思い止まったのだった。しかし同時に少し考えさせられた。

「何をそんなに考えていなさるの?」

「何うしてお前がズボンの穴を発見したのかと思ってさ」

「オホヽヽヽ」

と細君は勝ち誇った。

「何が可笑しい?」

「でも今頃漸くお気づきになるんですもの」

「それじゃチョク/\やっていたのかい? 道理で時々勘定が合わないと思ったよ」

と井口君は態と誤解して、冗談にしようと努めた。

「あら、私、何ぼ何でも取りはしませんわ。唯中身を検査して見る丈けよ」

「驚いたね。いつからだい?」

「それ御覧なさい。お顔色が変ったじゃありませんか?」

「そんなことがあるものか」

「あなたは初めの三月は些っとも嘘を仰有らなかったわ。けれども四月目からチョク/\私をお瞞しになりましたよ。お友達の家へ寄ったと仰有る時、蟇口や紙入を検めて見ますと、屹度五六円から十円ぐらい耗っていますわ。お附き合いでお酒を飲みにいらっしゃるなら仕方ありませんが、嘘を仰有らなくても宜いでしょう? 私、あなたからそんなに匿し立てをされますと、何ともいえない悲しい心持になりますよ」

と細君も最早いつまでも黙っていない時期に達していたのである。

「しかし昨夜は真実だったろう?」

「えゝ。蟇口の方は一円二十銭耗っていましたが、紙入の方はこの二三日手つかずですわね?」

「随分精確に調べているんだね? 恐れ入ったよ」

「ホヽヽ。これが一番正確なメートルでございますって」

「誰がそんなことを言うんだい?」

「中川さんの奥さんよ」

「ふうむ。それじゃ仕方がない」

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