親鳥子鳥
本文約87,700字 ・ 読了時間 約176分
あらすじ(AIが作成しました)
新聞記者として働く父、子供たちを育てる母、そして語り手である長男源太郎の一家を中心に、日常の出来事や団欒の様子を描く。晩餐の食卓では、母が受けた寄附金の相談や、近所との交流、さらにはかつて村で白痴のふりをして生活していた人物の逸話などが語られる。父の職業上の癖や姉妹との軽妙なやり取りを交えながら、平穏な家族の日常や周囲の人間模様を綴る物語である。
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一家団欒
お父さんが社から帰って来て、一同晩餐の食卓を囲む時、その日起った特別の事件が話題に上る。
「今日は里の母が見えて、私、上等の浴衣地を戴きましたよ」
なぞというのはお母さんの書き入れ事件である。それに対してお父さんは、
「ふうむ、それは宜かったね。彼方でも皆丈夫だろうね?」
と応じる。続いて里の話になって、
「私、その中に一日行かせて戴きますわ」
「何処へ?」
「里へですよ」
「この間行ったばかりじゃないか?」
「いいえ、あれはお正月でございますよ」
「然うだったかね。それじゃ行くさ」
というようなことに帰着する。
自分に関係のない問題は何うでも構わないが、
「あなた、今日は源太郎が学校のお友達と活動へ行く約束をして来て、ねだって困りましたの」
などと突如に吹聴されて、僕は大に面喰うことがある。
「そうして行ったのかい?」
とお父さんは怖い顔をする。
「お友達が門のところに待っていますし、土曜日ですから、つい……」
とお母さんが言い淀む。
「もういけないよ。活動は低級でいけないって断ってあるじゃないか?」
「はい」
と私も恐れ入る。しかし直ぐその後から、
「その代り今度芝居へ連れて行ってやろう」
とは有難い。活動の分らないのは少し時勢に後れている所為だろうと遺憾に思うが、芝居に力瘤を入れるところはナカナカ話せる。僕も何方かといえば高級の方が面白いのだから、これからはお母さんに御迷惑をかけまいと決心する。お父さんのいないのを承知でお母さんにねだるのは宜しくない。
お客さまも来ず、僕達もおとなしく、地震も揺らず、病人もなく、全く平穏無事の日もある。そんな時にはお母さんは、
「今日は押売が玄関に坐り込んで困りましたわ」
ぐらいのことで間に合わせる。こんな問題でもお父さんは、
「押売撃退の妙法を伝授してやろうか?」
なぞと受けて、冗談の材料にする。
「教えて戴きますわ。毎日一人や二人は屹度来るんですよ。御免、と言うから、お客さまかと思って襷を外して出て見ますと、筆を一本買って戴きたいなぞと申します」
とお母さんは毎度暇を潰されるので、女中のお蔦を相手に、然るべき駆除法を絶えず研究している。