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TORENDIA

四十不惑

本文約12,500字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

満四十歳を迎えた主人公は、妻から「四十にして惑わず」と釘を刺される。一流会社で文書課長を務める彼は、部署の綺麗なタイピストたちを管理する立場にあるが、一番の美人である小柴文恵から英語の指導を懇願される。公私混同を避けるため一度は断るものの、妻の許可を得て英語を教えることになり、次第に小柴に惹かれていく。そんな中、小柴に恋人がいることが発覚し、主人公は彼女の父親から身辺調査を依頼される。家庭の倦怠期の中で自身の心と向き合い、不惑の精神を学んでいく様子を描く。

佐々木邦

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綺麗なタイピストの群

僕が満四十になった時、妻は尾頭つきで誕生日を祝ってくれて、その席上、

「四十にして惑わずと申しますからあなたももう惑わないで下さいよ」

と註文をつけた。

「おれは今までだって惑ったことなんかないよ。停年まで今の会社にいる」

「迷わないで下さいってことよ」

「それだからさ。このまゝ頑張っていれば、重役のお鉢が廻って来ないものでもない」

「その方じゃないわ。分りやすく言えば、女に迷わないで下さいってこと」

「女に迷ったことはないよ。唯一遍お前に迷っただけで、すっかり悟りを開いている。冗談は時々言うけれど」

「その御冗談が私気に入りませんの。どこの誰さんが綺麗だの何だのと仰有ることが」

妻は幾つかの実例を引いて反省を促すのだった。考えて見ると思い当る。黙っていればいゝのに、僕は正直だ。タイピストの小柴さんのことを二度も寝言に言ったそうだ。

「不惑よ、あなた。四十にして惑わずよ。いつまでもお若い積りでいらっしゃると笑われますわ。慎んで戴きます」

と妻は不惑で縛りつける気だった。

さて、僕は一流会社に勤めること十七年、先ずもって順調組だ。現に文書課長を承わっている。押しも押されもしない。同期に卒業した連中の会へ出ると、僕あたりが一番いゝのらしい。

「子供がないのか? うまくやっている。それなら一生愛人と同棲しているようなものじゃないか?」

と皆羨ましがる。

僕も家内が一人きりだから生活がラクだということを認めている。子供がほしくないこともないけれど、なければないで諦めなければならない。

「僕のところは呑気ですよ。家内が一人きりですから簡単です」

と僕は言う。しかし妻はこの表現がよろしくないと言う。

「家内と二人きりですからと仰有って戴きます。家内が一人きりですからと仰有ると、いかにも二人ほしいようじゃありませんか?」

「成程ね。そうも取れるな」

「取れますとも」

「それじゃ気をつけよう」

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