独楽
本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分
あらすじ(AIが作成しました)
秋の夕暮れ、卓上で様々な形や由来を持つ独楽が廻る様子を描く。独楽が激しく廻り澄み切ることで、動の中にある不動の静寂を見出し、その深さを観照する。また、季節の移ろいや日常の風景を織り交ぜながら、病と向き合い戦う自身の内面や、離れた場所にいる義弟への愛情、静寂の中に響く生命の微かな息吹を綴り、静かな日常の断片を詩的な言葉で表現した作品である。
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征旅
蛾は
あのやうに狂ほしく
とびこんでゆくではないか
みづからを灼く 火むらのただなかに
わたしは
みづからを灼く たたかひの
火むらのただなかへ とびこんでゆく
あゝ 一匹の蛾だ
夢に白鶏をみる 暁のともしびほそく灯りて歳新し 城太郎
暁のともしび ほそい庫裡に
神さびた白鶏が ククク、クと鳴いて
羽搏いた
あとは 森閑と なり鎮まる
(鶏の面輪は 阿母の俤あつて 床しい)
いま 厳かに
うつつなに
――歳 軋り 現実に入り来[#ルビの「また」はママ]る
独楽
秋のゆふべの卓上にして
独楽は廻り澄む
――青森大鰐、島津彦三郎作、大独楽が
――鳥取の桐で作られた占ひ独楽が
――玉独楽が
――陸奥の「スリバツ」独楽が
――土湯、阿部治助作といふ 提灯独楽が
――伊香保の唐独楽が
――九州、佐賀のかぶら独楽が
――三重、桑名のおかざり独楽が
まはる まはる
秋のゆふべの卓上にして
独楽が 廻つてゐる
麦酒樽のおなかを ゆさぶりながら 廻るもの
六角の体を傾げながら 蹣跚くもの
口笛をふきながら 廻るもの
ころりころりと廻りながら 転りおちるもの
仆れたのち 廻りはじめるもの
廻りながら 仲間に頭を ぶちあてるもの
はやくも寝そべつて了ふもの
寂ねんと
孤り 廻り澄むもの
独楽よ
廻り廻つて澄みきるとき
おまへの「動」は
ちやうど 深山のやうな「静」のふかさにかへる
静にして
なほ 動
――この「動」の不動のしづかさを観よ
秋のゆふべの掌の上
独楽 ひとつ
廻りながらに澄んでゆく
半球の距離
卓上燈の傘のうへに きて
夜が
うつとりと 眼を閉ぢる
――鎧戸のそとで 雪が ささやく
(雪の重さが やはらかに 時間に零りつもる
咳きながら
地球のうへを
ひとつの跫音が 近づく
ひとつの跫音が とほりすぎてゆく
わたしのペンは ささやく
時間よりもながい尺牘を 一通
たたかふ義弟は
やがて
短く この
義兄の愛情を 読みをはるであらう
あたたかい東半球のあちら側
――剣の柄を かい込み
ぼんのくぼに 汗を光らせながら
鎧戸のそとに
雪
卓上燈の 傘のうへに 夜、
夜から剥落する
剣のやうな時間の微針が 粒子が
ささやきが
わたしの双の肩をさして
ひり ひりと 零りつもる
元朝
あかるい庭のはうで
胸張つて 高音
ことしの鶯が 啼く