銭形平次捕物控
本文約11,500字 ・ 読了時間 約24分
あらすじ(AIが作成しました)
本所を騒がす盗賊に悩まされ、心労のあまり病床に伏す御用聞・石原の利助。その娘・お品は、名人と名高い銭形の平次に救いを求める。平次は、夜な夜な不可解な音を響かせる盗賊の出没する地域を精査し、巧妙な手口を見抜いて事件を解決に導く。父である利助が世間から疑われないよう配慮した平次は、自身の功績を伏せ、利助に手柄を譲ることで御用聞としての名誉を救う。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、あっしは、気になってならねえことがあるんだが」
「何だい、八、先刻から見ていりゃ、すっかり考え込んで火鉢へ雲脂をくべているようだが、俺はその方がよっぽど気になるぜ」
捕物の名人銭形の平次は、その子分で、少々クサビは足りないが、岡っ引には勿体ないほど人のいい八五郎の話を、こうからかい気味に聞いてやっておりました。
遅々たる春の日、妙に生暖かさが睡りを誘って、陽が西に廻ると、義理にも我慢の出来なくなるような薄霞んだ空合でした。
「ね、親分、あっしは、あの話を、親分が知らずにいなさるはずはねえと思うんだが――」
「何だい一体、その話てえのは? 横町の乾物屋のお時坊が嫁に行って、ガラッ八ががっかりしているって話ならとうに探索が届いているが、あの娘の事なら、器用にあきらめた方がいいよ、町内の良い娘が一人ずつ片付いて行くのを心配していた日にゃ、命が続かねえぜ」
「冗、冗談でしょう、親分、誰がそんな馬鹿なことを言いました」
「誰も言わなくたって、銭形の平次だ、それくらいのことに目が届かなくちゃ、十手捕縄を預かっていられるかい」
「そんな馬鹿なことじゃねえんで――あっしが気にしているのは、親分も薄々聞いていなさるでしょうが、近頃大騒ぎになっている本所の泥棒――、三日に一度、五日に一度、選りに選って大家の雨戸を切り破る手口は、どう見ても人間業じゃねえ。石原の親分じゃ心もとないから、いずれは、銭形の親分に出て貰って、何とかしなきゃア納まりが付くめえ――って、先刻も銭湯で言っていましたが、あっしもそりゃアその通りだ、うちの親分なら――」
「馬鹿野郎ッ」
みなまで言わせず、平次はとぐろをほぐして日向へ起き直りました。
「へえ――」
「へえ――じゃないよ、世間様の言うのは勝手だが、手前までそんな事を言やがると承知しねえよ」
「相済みません」
「本所は石原の兄哥の縄張だ、頼まれたって俺の出る幕じゃねえ。それに、石原の兄哥にケチなんぞ付けやがって」
「――ヘエ、面目次第もございません」