TRENDIA CLASSIC
梯梧の花
山之口貘
1 / 4
ぼくが、まだ、おっぱいをのんでいたころのある日のことである。母のおっぱいに吸いついたのであったが、すぐに、おっぱいを突っ放して、ぼくは泣き出してしまった。ぼくのことを離乳させるために、母がその乳首のところに唐辛をつけてあったからなのである。ぼくは、泣きながら、台所にあった小さな水桶を引き摺って来て、その水に手をぬらしては、母の乳首を懸命に洗ったことを記憶しているのである。だが、洗ってから、おっぱいをのんだかどうかは、さっぱり記憶にはないのだ。しかし、そのことは、おそらく、ぼくの人生の最初の大事件なのであったに違いなく、ぼくの記憶の一番古いものとして、いまでも時に思い出すことなのだ。そしてそのたびに、ぼくは仏桑華の花をおもい出さずにはいられないのであるが、それはあのころ泣きながらも、ぼくの眼に、仏桑華の花がちらついて見えていたことを覚えているからなのであろう。一本の仏桑華が、当時の家の庭(実は庭ではなかった。縁側の面しているわずかばかりの空地なのであった。)の片隅に、生えていたのだ。
山之口貘の他の作品
TRENDIA CLASSIC
雨あがり
山之口貘
雨あがり
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
あとの祭り
山之口貘
あとの祭り
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
沖縄帰郷始末記
山之口貘
沖縄帰郷始末記
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
池袋の店
山之口貘
池袋の店
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
おきなわやまと
ぐち
山之口貘
おきなわやまとぐち
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
声をあげて泣く
山之口貘
声をあげて泣く
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
質札
山之口貘
質札
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
歳末の質屋
山之口貘
歳末の質屋
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
詩とはなにか
山之口貘
詩とはなにか
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
酒友列伝
山之口貘
酒友列伝
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
自伝
山之口貘
自伝
山之口貘
TRENDIA CLASSIC
装幀の悩み
山之口貘
装幀の悩み
山之口貘