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TORENDIA

白い月の世界

本文約16,800字 ・ 読了時間 約34分

あらすじ(AIが作成しました)

グリーンランドの氷冠は、日本全土の約六倍の広さを持ち、草木も生物も存在しない雪と氷だけの無人の世界である。厚い氷の中には太古の空気が閉じ込められており、著者はその氷を採取して日本へ持ち帰る。輸送の困難を乗り越えて札幌の低温室へ運ばれた氷を使い、かつての地球環境や大気の成分を解明するための研究を試みる様子を綴る随筆である。

中谷宇吉郎

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黒い月と白い月

ハワイ島の高峰マウナ・ロアは、一万三千七百フィートの山頂を中心にして、神奈川県よりも一周り広い全地域が、黒い熔岩で蔽われている。木も草も、昆虫も鳥も、生命のあるものは、なに一つこの土地では生きて行かれない。この黒い月の世界のことは、前に書いた。

ところが、ちょうどこれと対照する白い月の世界も、この地球上にある。それはグリーンランドの氷冠(アイス・キャップ)の上の景観である。氷冠というのは、太古から降りつもった雪が解けないで、次第に積み重なり、自重のために氷化したもののことである。平らな土地にできた、動かない氷河と思えば、まずまちがいない。

グリーンランドは、島としては、世界でいちばん大きい島であって、南極大陸を除いては、いちばん極に近い陸地である。面積は二百十四万平方キロで、現在の日本の全領土の六倍半ある。所属はデンマークであるが、このとほうもなく広い土地に、人間は二万三千人くらいしか住んでいない。その大部分は、エスキモー人である。

日本の六倍半の土地に、人間が二万三千人といえば、ほとんど無人に近いといってよい。事実、グリーンランドの大部分は、氷冠に蔽われていて、この氷冠の上は、全くの無人の世界である。無人の世界というよりも、これはまったく生命のない世界といったほうがよい。グリーンランドの地図を見ると、海岸に沿ったごく狭い地域だけに色が塗ってあって、内部は真白になっている。この白く残されたところが氷冠であって、少なくも日本領土の六倍はある。そしてそこにあるものは、雪と氷だけであって、木もなければ、岩も見られない。要するに黒いものは、何ひとつない世界である。

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