TRENDIA CLASSIC

白い月の世界

中谷宇吉郎

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黒い月と白い月

ハワイ島の高峰マウナ・ロアは、一万三千七百フィートの山頂を中心にして、神奈川県よりも一周り広い全地域が、黒い熔岩で蔽われている。木も草も、昆虫も鳥も、生命のあるものは、なに一つこの土地では生きて行かれない。この黒い月の世界のことは、前に書いた。

ところが、ちょうどこれと対照する白い月の世界も、この地球上にある。それはグリーンランドの氷冠(アイス・キャップ)の上の景観である。氷冠というのは、太古から降りつもった雪が解けないで、次第に積み重なり、自重のために氷化したもののことである。平らな土地にできた、動かない氷河と思えば、まずまちがいない。

グリーンランドは、島としては、世界でいちばん大きい島であって、南極大陸を除いては、いちばん極に近い陸地である。面積は二百十四万平方キロで、現在の日本の全領土の六倍半ある。所属はデンマークであるが、このとほうもなく広い土地に、人間は二万三千人くらいしか住んでいない。その大部分は、エスキモー人である。

日本の六倍半の土地に、人間が二万三千人といえば、ほとんど無人に近いといってよい。事実、グリーンランドの大部分は、氷冠に蔽われていて、この氷冠の上は、全くの無人の世界である。無人の世界というよりも、これはまったく生命のない世界といったほうがよい。グリーンランドの地図を見ると、海岸に沿ったごく狭い地域だけに色が塗ってあって、内部は真白になっている。この白く残されたところが氷冠であって、少なくも日本領土の六倍はある。そしてそこにあるものは、雪と氷だけであって、木もなければ、岩も見られない。要するに黒いものは、何ひとつない世界である。

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