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TORENDIA

I駅の一夜

本文約4,500字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

戦時中のある三月、空襲による混乱で予定が狂い、I駅で足止めされた著者は、雪の降る真暗な町で宿を探す。満室を断られ続けた末、一軒の宿屋に助けを求め、そこに住む知的な女性の厚意で宿泊が叶う。四畳半の部屋を埋め尽くす書物に囲まれ、教養豊かな夫人と語り合う中で、著者は過酷な状況下で静かに知識と精神を育む人々の姿に日本の希望を見出す。著者が体験した一夜の出来事を通じて、市井の人々の強さを綴る。

中谷宇吉郎

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🎧 I駅の一夜 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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まだ戦争中の話である。

三月十日の未明、本所深川を焼いたあの帝都空襲の余波を受けて、盛岡の一部にも火災が起きた。丁度その時刻には、私は何も知らずに、連絡船の中でぐっすり寝ていた。

青森に着いても何事も知らされず、いつものように乗客は先を争って汽車に乗ろうとし、それを制止する駅員の声がとぎれとぎれに雑沓の中に響く、普段通りの連絡駅風景であった。雪が少しばかり降っていた。

やっと座席がとれてほっとした。やれやれこれでとにかく東京まで行けるのである。黙って坐ってさえいれば、いつかは東京に着けるということが、この頃は少し不思議なことのように感ぜられるくらいである。

ところがこの時は、折角のその安心感が僅か半日で打ち切られてしまった。盛岡へ着いてみたら、駅の周囲がすっかり焼けていて、まだ余燼が白く寒空に上ち昇っている風景に遭った。今朝の夜明けに初めての空襲があって、駅も少しばかりの被害を受けた。とにかく汽車は此処で打切るから、次の盛岡始発の列車に乗れという話である。

重い荷物を持ちあぐみながら、いわれた通りに三時間ばかり待って、次の列車に乗ろうとしたが、恐ろしい雑沓でとうとう乗りはぐれてしまった。もう二時間待って、その次の青森から来る上野行にやっと乗ることは乗ったが、それがまた満員で、漸くデッキの所に割り込ましてもらったくらいであった。初めのうちはどうにか我慢していたものの、夜に入ると共に風は冷くなるし、脚は疲れてくるし、このまま上野まで立ち通しではどうにも身体が持たないような気がして来た。

車掌に相談してみたら、I駅で下車して一泊すれば、明朝早く始発の上野行が出るから、それに乗ればすいているだろうとのことである。但し宿屋は今からではむつかしいかもしれないがという。しかしとうとう我慢し切れなくて、思い切ってI駅で下りてしまった。夜の九時過ぎのことで、しかも燈火管制のやかましい最中のこととて、何処も此処も真暗である。それに雪がまた少し強く降り出して来ている。

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