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TORENDIA

記憶ちがい

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

都心の小料理屋で五十年ぶりに再会した六十三歳の老人二人が、少年時代の記憶を語り合う様子を綴る。高等二年当時、雨の日に出会った少女の足指を巡る出来事について、一方は自らが行った悪戯として後悔を抱えてきたが、もう一方はそれが他人の所業であったと指摘する。記憶の曖昧さや自己の想像がいつの間にか事実に塗り替えられていく心理の不可思議さを描き、過去の出来事に対する二人の異なる回想を物語の軸として提示する。

辰野隆

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🎧 記憶ちがい / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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「久しぶりだな、全く。」

「久しぶりどころじゃないね、五十年ぶりだもの。」

こう云って、声を揃えて笑ったのは、何れも老人で、二人とも今年は算え歳の六十三である。この“久しぶり”という間投詞のような挨拶は、今しがた、二人が会ってから、もう二、三度繰返されていた。午食には既に遅く、夕飯には未だ早い半端な時刻に、二老人は都心に近い賑やかな街の小料理屋で盃を重ねている。

「先刻、電車の中で、どうして俺だってことが判ったんだい? こっちはまるで気がつかなかったんだが、向い合って腰をかけているお爺さんから、いきなりYちゃんじゃないか? と言われた時に、初めて俺は五十年前の記憶が一時に甦って来たので、Nちゃんだったね、と言ったら、君が、やっぱりそうだったか、と言ったね。」

「俺は俺で、腰を下して向い合った時から、Yちゃんだな、とは思ったんだが、腮の左側に見覚えの黒子が無いので、或は間違いではないかとも考えたが、結局思い切って訊いてみたのだ。」

「黒子は顔を剃る時に邪魔になるので、もう疾うの昔、薬で焼いてしまったよ。ところで、Nちゃん、君と判ってから、直ぐに思い出したことがあるんだが。覚えていないかな。俺たちが高等二年の時だった。その頃、尋常二年か三年に、飯田の雪ちゃんという可愛いお嬢ちゃんがいたのを忘れたかい?」

「覚えているとも、雨の日のことだろう。あれは忘れられないよ。」

「そうか、そいつは驚いたね。」

初夏の雨の日だった。休み時間に、運動場で遊べぬ少年少女たちは廊下を駆けまわったり、或はYやNのように、廊下の端に腰をかけて、両足をぶらんぶらんさせながら、灰色の空を物足らなそうに眺めたりしていた。Yがふと横を向くと、手を延ばせばとどく程の所に、色の白い円い顔の雪ちゃんが、片方の足を折って坐り、片方の足をぶらりと垂れて、これも余念なく、降る雨を眺めていた。

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