TRENDIA CLASSIC

二人のセルヴィヤ人

辰野隆

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リヨンからパリに移ったのは冬の最中であった。停車場前から古い汚れたタクシーに乗って、オーステルリッツ橋を渡った時、遥の河下にノートル・ダムの黒い影が、どんより曇った朝の空に、寒そうに立っていたのが今も目に浮んで来る。向いの植物園の、葉の落ち尽した木立も、木立を囲む鉄柵も、固く黒く、とげとげしく見えた。青葉のパリしか知らなかった私には、此の蕭条たる眺めがひどく心細かった。今、あらゆる劇場で、モリエールの三百年祭を祝っている都とは思えなかった。

セーヌ左岸のラテン区の一下宿に行李を卸して、夏以来会わなかったYの顔を見た時、私の発した第一の言葉は「パリの冬は陰気だなア」と云う歎声であった。学生街のみすぼらしい下宿の、部屋の中で、首に襟巻を巻いて、外套を着ているYの姿は、一層私の気をくさらした。粗末な机と椅子と寝心地の悪そうな寝台は寒い冬を更らに痛々しく思わせた。

「スチームは通らないのか。」

「通ってはいる。然し寒いんだ。何しろ安価いんだからね。来てから俺の部屋を眺めまわして喫驚するだろうとは思っていたが、やっぱり喫驚しているね。一寸いい気味だな。貴様の部屋は今、掃除をさせている。俺の部屋と似たものだから、掃除しても大して綺麗にもならないが、まあ我慢するさ。斯うした学生町の安下宿にくすぶらなくては本統のパリは解らない。上等なホテルに泊って、凱旋門を拝んで、淫売を買うなんざあお上りさんの定石だぜ。」

斯う云って、Yは面白そうに笑った。私は到着早々一本参ったと思った。

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