堀尾の小旦那
就職難といっても、その頃は世の中が今日ほど行き詰まっていなかった。未だ/\、大学即ち帝大の時代で、一手販売だったから、贅沢さえ言わなければ、新学士は何処かにはけ口があった。その証拠に、堀尾君の同期生は半数以上身の振り方が定っていた。それが卒業と共にポツ/\赴任する。○高以来六年間毎日顔を合せて来た連中も今やチリ/″\バラ/\になる。送別会が頻繁にあった。
「おい。又明日の晩あるよ」
と同じく卒業したばかりの間瀬君が堀尾君を訪れた。
「誰だい?」
「伊丹さ」
「彼奴は満鉄だったね?」
「然うさ。一番遠いんだから、特別に都合して出てやってくれ給え」
「出るには出るが、何うだね? 二三人宛束にしてやる法はなかろうか?」
「それも考えている」
「大変だろう?」
「何あに」
「いや、実際御苦労だよ」
と堀尾君は犒った。世話好きの間瀬君は○高会の幹事をしている。
「何うせ閑だもの」
「郵便じゃ間に合わないのかい?」
「遠いところは横着を極めて郵便でやるが、本郷区は廻って歩く。皆の情勢偵察かた/″\さ」
「追々片付くね」
「うむ。好くしたものさ。山下が台湾銀行へ行くよ」
「ふうむ」
「太田も北海道の炭鉱鉄道へ定るらしい。皆遠いよ、成績の好くない奴は」
「成績よりも情実だぜ」
「それも確かにあるね。立川なんかが三菱へ入っているんだもの」
「君は送別の辞ばかりやっていて、未だ何処へも定らないのかい?」
「僕は運動を思い切った」
「何うして?」
「僕の成績じゃ無理だよ」
「そんなに謙遜することはない。当って砕けろだ」
「実は三回当って見たが、美事撃退さ」
「僕も一回失策った。余り態の好いものじゃない」
「君のは銓衡委員と議論をしたからさ。僕のはヘイ/\言っていて、サン/″\取っ占められた上に、おっ投り出されたんだから、思い出しても腹が立つ」
「僕はもう諦めた。お願い申して縛られたくない」
「食える奴は贅沢なことを言うよ。奥田君も然うだろう?」
「さあ。郷里へ帰るとも言っている」
「君と奥田君と尾崎君だな、連中で所謂銀の匙を銜えて生れて来たのは」
「僕は駄目だよ。次男坊だ」
「藪医者の四男坊よりは好かろう」
「何うだかね」