TRENDIA CLASSIC

六三制を活かす道

中谷宇吉郎

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一 六三制の十年

そろそろ新学期を迎える頃になると、毎年思い出したように、教育問題が、日々の新聞紙面に、華々しく登場してくる。入学試験が眼前に迫ってくると、受験生徒をもっている家庭では、親も子もなく、一家を挙げての最大の関心は、「教育問題」に向けられる。

しかし教育の問題は、今更述べ立てるまでもなく、国家百年の大計であって、年に一回の入試時期だけの問題ではない。敗戦後の日本は、新憲法の制定、財閥の解体、農地法の実施など、幾多の革命的な変革を強行したが、これらの大変革にも劣らぬものが、六三制という新学制の採用であった。

学制の改革くらいは、それほどの重大事ではあるまいと思われるかもしれないが、実際は、あの学制改革は、ほとんど不可能のことを、強行したともいえるのである。日清、日露の戦に勝ち、朝鮮を併合した明治の時代、すなわちいわゆる日本の最盛期においても、小学校四年の義務教育を、六年に延長することは、かなり困難な事業であった。それを敗戦後の瀕死の国情下において、一気にさらに三カ年も延長することは、そもそも初めから無理を通り越した話である。しかもこの六三制は、全く国情の異なったアメリカにおいて、育成された学制である。それをそのまま鵜呑みにして、貧窮のどん底に落ちた日本へ適用しよう、というのであるから、困難の度は、初めから推して知るべきであった。

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