「もく星」号の謎
本文約7,200字 ・ 読了時間 約15分
あらすじ(AIが作成しました)
「もく星」号の遭難を機に、航空機事故の原因究明と再発防止のあり方を論じる。過去の航空機墜落事故を例に挙げ、単なる会議体による形式的な検討ではなく、残された機体の分析や科学的な実験を通じて原因を突き止める重要性を説く。事故調査にあたる関係者に対し、責任を負う覚悟を持って本格的な研究と徹底した調査を行うよう切に求める内容である。
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「もく星」号の遭難も、桜木町事件につぐ大悲惨事であった。この事件に私は、直接の関係は何もないが、航空機の遭難には少し因縁があるので、思いついたことを書き止めておく。
第一に、このマーチン機には、私は二度ばかり乗ったことがある。そして航空会社の人の話を真に受けて、これは非常な優秀機だと思っていたので、今度の事件の新聞記事を読んで、少し肌寒い思いをした。
去る二月二十八日にも、札幌行のマーチンに乗った。その日は、初めダグラスが飛んだのであるが、離陸後間もなく発動機に故障が起きたので、羽田に引き返し、マーチンに乗り換えたのである。ダグラスの方も、大分使い古した飛行機らしい。発動機の調子が悪いので、前日から修理をしていたそうである。当日もそのために出発が三時間もおくれて、やっと修理をすませて、すぐ飛び出したわけである。ところが離陸して、東京湾の上へ出たと思ったら、すぐ機体に妙な振動を感じて、金属的なへんな音が二、三回したと思ったら、右の発動機が一つ止ってしまった。
幸い四発であるから、飛行には差しつかえがない。しかし海の上で自分の乗っている飛行機のプロペラが、一つ止っているのを窓越しに見るのは、あまりいい気持のものではない。こういう時に、飛行場へ引き返そうとして、すぐに旋回をしてはいけないのである。あの程度の大型飛行機になると、旋回で高度がかなり落ちるので、低空で旋回することは、大いに危険なのである。もちろん操縦士は、十分心得があるので、そのまま直線飛行をつづけていた。これなら安心だと思ったが、厄介なことに、発動機が一つ止っているのと、超満員の乗客だったもので、飛行機がなかなか上昇してくれない。そのままで十分近くも飛んで、やっと必要高度がとれて、無事飛行場へ引き返すことが出来た。しかしその間、やはり気味は悪かった。それからマーチンに乗り換えたわけであるが、今だったら、皆が少し尻込みをしたかもしれない。安全率と心理作用とは、別問題である。