TRENDIA CLASSIC

身辺雑記

中谷宇吉郎

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私がものを書き出したのは、四十くらいからのことで、まだ十二、三年にしかならない。それにしては、ずいぶんたくさん書き散らしたもので、曠職のそしりは、所詮まぬかれないものと、内心観念している。

しかし少しくらい、あるいは大いに、評判が悪くなっても、それを償ってあまりあるくらいの歓びがある。どんなに小さいものでも、ものを創る歓びは、何ものにも換えられない。実験が一段落ついて、何か瑣細なしかし新しいことがらが分った時と、少し気に入った随筆を一篇書き上げた時とは、同じような興奮と安堵とを感ずる。どうせ人間百年は生きられないのであるから、こういう歓びを享受しなくてはつまらないと、すっかり度胸をきめて、この頃は悪びれずに書くことにしている。

ところが、最近そういうささやかな歓びとは、比較にならぬ大歓喜にめぐり遭って、いささか呆然とした。それは『あるびよん』の九月号に載った、如是閑先生の「イギリス式日本のこころ」である。褒められたといえば自惚れになるが、私が現代の日本人中最も尊敬している人の一人である如是閑先生が、非常な好感をもって、私の本について八頁にも及ぶ長文のものを書いて下さったことを、冥加の至りと感じている。ものを書き出してから十数年の間に、あんなに嬉しかったことはなく、また今後もないことだろうと思う。嬉しかったのだから、悪びれずに喜んで、こういう雑記を書くことにした。

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