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TORENDIA

ケリイさんのこと

本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

ワシントンで再会したケリイ博士は、終戦直後の日本の科学界を献身的に支えた物理学者である。北大を訪れた際、札幌の厳しい冬に困窮する研究者たちを助け、石狩川の視察中に吹雪で遭難しかけた経験を持つ。その際に救いを求めた農家で、言葉の通じない老婆の深い親切に触れ、日本人の心に触れた体験を述懐する。この随筆は、敗戦後の日本を支えた異国の科学者への敬意と、北海道での忘れがたい記憶を綴る。

中谷宇吉郎

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十二月の初め頃、ちょっと用事があって、ワシントンへ出かけた。実は用事といっても、大したことはなかったので、久しぶりにケリイさんに会ってみたいという気持もあったからである。

ケリイ博士といえば、日本の自然科学関係者の間には、非常に親しい名前である。終戦後間もなく日本へやってきて、総司令部の経済科学局で、自然科学方面の主任を、ずっとやっていた物理学者である。たしか講和会議のすぐ前までいたはずで、日本に対して、非常に深い理解をもっていた。終戦直後の虚脱状態にあった日本の科学界が、案外早く息を吹き返したのは、この人の親身も及ばぬ介抱が、大いに役に立った。

占領軍としての総司令部は、各種の政策を残していったが、その中には、今日になれば、いろいろ批判されることもあろう。しかし自然科学に関する限りは、その施策は、かなり適正なものであったし、また親切でもあったと思われる。とにかく、日本の科学界は、私たちが初めに予想したよりも、ずっと急速に、その体力を恢復したという感じがする。

日本は、現実問題として、世界の歴史に残るような完全敗北を喫したのである。そういう敗戦国で、敗戦後八年目には、もう世界の理論物理学会の大会が開かれたのである。しかも東洋というハンディキャップを入れての話であるから、こういうことは、世界的にいって、ちょっと類例がないであろう。これにはもちろん、湯川さんや朝永さんを初めとする日本の理論物理学者たちの力が大いに働いているが、その外に、日本の科学界が蘇生したという点も、一つの有力な背景をなしている。そしてその蔭には、ケリイさんの隠れた功績が、少なくも一つの礎石として、立派に存在しているように思われる。

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