第一回
何にする積りかこの間学校で担任の先生が皆のお父さんの職業を取調べた。級長から席順に官吏大蔵省技師とか、実業白木屋店員とかと答えて、僕の番が近づいた時、僕は尠からず当惑した、僕のお父さんは商売なしだ。今に何かやるよと言うのは口先ばかりで、僕を長男に五人の子供の親になってまだ一定の職業がない。四十にして惑わずというからイヨ/\最早惑わずに無職業と度胸を据えたのらしい。何にもしないで生きているのを徒食というと先日読書の時間に習ったが、まさか徒食業と答える次第にも行かず困っていると、僕の前の奴がすっくと立ち上って、
「無職!」
と元気好く答えた。おや。仲間があったか、と思ったら、僕は急に心丈夫になった。しかし先生は、
「無職! 実はその無職というのに困るのですが、全然無職という人は滅多にありません。何かしていらっしゃるでしょう?」
と森下君を追究した。
「何にもしていません」
「それなら金持で唯遊んでいらっしゃるのですか?」
「否、金持じゃありません」
と森下君は否定した。
「それでは生活は何うしてなさるのですか?」
と先生が立ち入った。世智辛い時勢だ。中学一年生が生活問題の解答をしなければならない。
「家賃が入ります」
「それなら家主じゃありませんか。家作は沢山ありますか?」
「沢山あるようです」
「そうして御自分の地面でしょう?」
「そうです。地代も入ります」
というような問答のあった末、森下君のお父さんは地主という判決を受けた。そうして次は僕の番だった。
「無職です」
と答えて、僕はこれは矢張り簡単には済むまいと思ったから、立った儘でいた。果して先生は浮浪無頼では納得せず、家作や地所の有無を確めてから、お宅へ物を頼みに出入する人はありませんか等と言って、高利貸の嫌疑まで掛けた後、
「全然の無職には困りましたな。それならばお父さんは主に何をなすって一日をお送りですか?」
と訊いた。
「大抵本を読んでいます」
と僕は有りの儘を答えた。
「何ういう御本ですか?」
「さあ、文学の本が主です」
「それなら文学者ということにして置きましょう。全然無職では困る」
と先生は奥さんまで職業婦人の所為か無職を良民と思っていない。