TRENDIA CLASSIC

スポーツの科学

中谷宇吉郎

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大分昔の話であるが、冬彦先生がある新聞に「角力の力学」というものを書かれたことがあるそうである。それは、漱石先生が未だ有名になりかけられた頃の話であるが、これらがまずスポーツ物理学の先駆であろう。

大体スポーツ物理学というようなものが成り立つかどうかが問題であるが、この頃のようにスポーツ全盛で科学尊重の世の中では、この二つの言葉を単につなぎ合せただけでも、相当のジャーナリスチックな価値が出るらしいのである。物理学という言葉の本来の意味は「物の理」を考える学問であって、そのような意味からいえば、松沢一鶴氏がオリムピックの前に水泳選手を訓練された時の詳しい記録が残されていたら、そのようなものこそ本当のスポーツ物理学であるのではないかという気もする。数か月前に、日本の水泳選手のことが書いてあって、羅府以来日本の選手は、力を附けることに重点を置いて野放しにしてあったが、愈々試合の前になって崩れた型を直すと急に記録が上る見込だという記事があった。自分はそれを読んでひどく感心したことがある。

物理学を職業とする者のスポーツ物理学などというものは、特殊の場合を除いては結局物理の技術の眼から見たスポーツに過ぎない場合が多い。これらの例から見たら子供騙しのようなものかも知れない。もっとも、スポーツというからには記録を上げたり勝ったりすることが一番大切なことであるには違いないが、そのような問題を離れて、単に興味という点のみから見ると、物理技術的に見たスポーツ物理学にもなかなか面白いことが多いのである。

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