TRENDIA CLASSIC

清々しさの研究の話

中谷宇吉郎

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この頃ハンチントンの『気候と文明』が岩波文庫に出たので、前から読みたいと思っていた矢先、早速買って見たが、大変面白かった。中には少しくだくだしいところもあるし、随分身勝手な資料を基とした議論もあって、勿論あのままに簡単に承服する訳には行くまいと思われる点もあるが、私はこの方面には全くの素人なので、この新しい地理学の全面的批判などをする気持は勿論ないし、又しようと思っても出来る話でもない。ただ少し身勝手だと思われる点は、例えば人種に本質的の優劣があるという例に、アメリカにおける黒人と白人との能率の比較をしている条りなどがあるからである。例えば白人と黒人との農民が経営している農場の広さの比較とか、収入の比較などから、白人が人種として本質的に優れているというような結論を平気で出しているようである。その結論自身はあるいは本当なのかも知れないが、その説明が少し私などには腑に落ちぬところがあるようにも思われる。色々な物質的条件が、特に南部では、白人にとっても黒人にとっても現在では平等であるのに、この差が出ているという意味の説明がついているのである。それもアメリカの事情をよく知らない私にとっては、真偽のほどは分らないのであるが、もしそれが本当としても、過去数世紀にわたって、白人がどのように黒人を待遇してきて、そしてそのために黒人が精神的にどのような打撃を受けてきているかということを考えてみたら、軽々しくそういう結論は下せないのではなかろうかという気がする。

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