TRENDIA CLASSIC

求婚三銃士

佐々木邦

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待遇問題

安達君は乗換の電車を待ちながら、青空を仰いで、意気軒昂たるものがあった。卒業後半歳にして、竟に就職戦線を突破したのである。勤め始めてから丁度一週間、仕事の方はまだ無我夢中だ。サラリーマンとしては文字通りに日が浅い。しかし得意の度合はそれに反比例を保っていた。もう一人前だと思うと、何となく尾鰭がついたような心持がする。

「おい。何うだい?」

「駄目だ。然う言う君は何うだい?」

「矢っ張りいけない」

「いつになったら目鼻がつくんだろうかな?」

と心細い問答を繰り返していた頃とは違う。

待っている電車が来ない中に、もう用のない方が又着いて、乗換の客が際立って数を増した。安達君は多少迷惑を感じた。押し合いになるから、うっかりしていると取り残される。一体、安達君は控え目の性分だ。人を突き退けて自分丈け進む気になれない。学校時代には、その為め見す/\遅刻したことがあった。しかし今は出勤だ。遅れては困る。覚えず腕時計を見て、努力を心掛けた。

「やあ。安達君」

と折から声をかけて、人を分けて来た青年があった。同じ級に机を並べた村上君だった。然う別懇の間柄でもないが、野球の応援団を指導していた男だから、一種の公人として親しみを持っている。安達君と違って、万事積極的だ。

「やあ」

「何うだい?」

「漸くありついた」

「何処だい?」

「○○だ」

「ふうむ。銀行かい?」

「信託の方だ」

「それは素敵だ。あすこの信託はこれからだから、有望だよ。新らしいところに限る。幾らだい?」

「五十五円さ。余り素敵でもないんだよ」

「しかしボーナスとも七十円になるだろう?」

「先ずその辺さ。君は何うだい?」

「これだ」

と村上君は折鞄を動かして見せた。

「何処だい?」

「○○生命さ」

「ふうむ。これこそ素敵だ」

「いや、外勤だ、差当り。一年たつと内勤にして貰える。ところで君、ボーナス丈け何うだい?」

「おい。来たよ」

と安達君が注意した。村上君は機敏だ。側にいた人を押し退けて、安達君の腕を捉えながら第一着に乗り込んだ。しかし朝の電車は混んでいる。坐る席は無論なかった。

「君、ボーナス丈け何うだい?」

「何が?」

「保険へ入ってくれ」

「さあ」

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