本文へ移動
TORENDIA

監獄署の裏

本文約11,400字 ・ 読了時間 約23分

あらすじ(AIが作成しました)

西洋から帰国し、市ヶ谷監獄署の裏手に住むこととなった青年が、故郷の因習や血族の束縛、老いていく母への複雑な感情を吐露する。異国での自由な生活を懐かしみながら、日本の社会や家族との関係に疎外感を覚える青年が、庭の移ろいや日常の風景を凝視しつつ、静かな絶望と孤独を綴る書簡体の作品。

永井荷風

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 16

われは病いをも死をも見る事を好まず、われより遠けよ。

世のあらゆる醜きものを。――『ヘッダ ガブレル』イブセン

――兄閣下

お手紙ありがとう御在います。無事帰朝しまして、もう四、五カ月になります。しかし御存じの通り、西洋へ行ってもこれと定った職業は覚えず、学位の肩書も取れず、取集めたものは芝居とオペラと音楽会の番組に女芸人の寫真と裸体画ばかり。年は已に三十歳になりますが、まだ家をなす訳にも行かないので、今だにぐずぐずと父が屋敷の一室に閉居しております。処は市ヶ谷監獄署の裏手で、この近所では見付のやや大い門構え、高い樹木がこんもりと繁っていますから、近辺で父の名前をお聞きになれば、直にそれと分りましょう。

永井荷風の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本