オペラがはねて、一人の東洋婦人がタキシーを探していた。
一人のオペラ帽を光らした中年の紳士が婦人を誘って戸の開いている立派な自家用自動車の傍へ連れて行った。
婦人「あら、これはタキシーではありませんわ」
フランス紳士「そうです、これは私のです」
うしろから髪をのばしたばかりの小柄の東洋の青年が、せかせか歩いて来た。
青年「ママン! 誘惑されちゃいけない」
紳士「あなたは?」
青年「これ、僕のママです。ママこっちへ来るんですよ」
紳士は二人を制して微笑した。
紳士「よろしい、私お二人とも乗せます」
青年(笑いながら)「悪漢みたいだな、知らん人を自動車へ乗せるなんて、あんたは」
紳士「冗談じゃない、そりゃ、アメリカのことですよ。フランス人の物好きさ」
青年、婦人と行きかける。
紳士「乗って行き給え、オペラの帰りにぼろタキシーなんかに乗るもんじゃないよ」
青年「僕達直ぐ家へかえるんだ」
紳士「だから君のお宅まで送ってあげますよ。不安なら君操縦したまえ、君操縦出来る? ショッファーと僕こっちに乗るから君ママを側へ乗せて操縦したまえ」
婦人を傍へ坐らせて操縦しながら青年は後の紳士に話しかける。
青年「パリの男はいたずら者だな、外国のおんなを自動車に乗せて走ろうなんて」
紳士「まだ攻撃かい――そりゃいたずら者の時もあるさ、だけど今夜の場合なんかまったく物好きの深切ですよ。だって僕は歌劇の舞台以外おしろいをべったり塗って西洋人のなかをしゃなしゃな歩く沢山のマダム・バッタフライの複製には飽き飽きしているんだ。このお嬢さんは……いや、ママさんはあっさりしている。ボックスでも眼鏡を抱えこんで真面目に観ている……好意が持てたね。タキシーなんか探させたくなくなったね、僕の車に乗せて上げたかった。君がついてるのを知らなかった、好息がいたらなお好都合じゃないか。」
青年「ああそうか――だけどお嬢さんなんて――まったく西洋人には東洋人の年頃が分らないのがおかしいね、殊に女は子供に見られやすいね」
紳士「そうだ、東洋の大がいの婦人はお嬢さんに見えるね」
青年「お嬢さんを深切にするなんてやっぱりいたずらがかってますね」