好い手紙
本文約2,100字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
東京の貸家に暮らす画家の青年と、その兄の未亡人である女の日常を描く。ある晴れた夏の朝、女は青年宛に届いた見知らぬ女性からの熱烈な恋文を見つける。青年が関心を示さない一方で、女はその手紙に綴られた言葉に自分自身の献身と美学が認められたと確信し、青年を自分の理想へと育て上げたこれまでの歳月に深い充足感を覚える。自身の芸術的情熱を青年に投影し、手紙の賛辞を我が事として受け止める女の複雑な心理を鮮やかに写し出す。
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場所、東京、山の手の一隅、造作いやしからねど古りたる三間程の貸家建の茶の間、ささやかなれど掃き浄められて見好げなる庭を前にす。
晴れたる夏の朝、食後卓上の器具とりかたづけられぬ前、卓上には器具の真中に夏花の一輪挿し。室内の壁間ところどころに金縁、或は白木の手製らしき額縁にはめられたる油画。ある一二ヶ所にヴァイオリン一二挺掛けてある。
男二十四五、武骨なれども垢抜けたる風貌、洗いたての白地単衣、煙草をくゆらして長閑なる様。三分間の後、女出で来る。
女三十前後、美貌、ただし眼がかなり強い。片手に食後の果物皿、片手に、水色の小形封筒を持ち居る。派手なれどレファインされたる品よき着附、雪白のエプロン、男の傍に坐る。果実皿を卓上に置き封筒を突附ける様に男の前へ置く。男、一寸あわてて直ぐ落ち付く。
女。津田良雄様へ。第三信、松野すみ子よりって一たい何なの。 男。(封筒を一寸見やりて。)何でもありませんよ、こんなもの。 女。なんでもないことが……しかも第三信じぁないの。 男。(落ちつきて。)そうですよ。三本目の手紙ですもの。 女。まあ、私が外出勝ちなのを好いことにして、もう三本も手紙のやりとりしてるんですか。 男。やりとりじゃあありませんよ、向うから只呉れるだけなんですよ。 女。いくら只むこうから呉れるだけだって……ああ、私くやしい。 女横を向いて雪白のエプロンを眼にあてる。