動かぬ女
本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分
あらすじ(AIが作成しました)
小田原から熱海へ向かう軽便鉄道で、著者一行は重厚な老紳士を筆頭とする一団と乗り合わせる。一行には夫人や三人の子供、そしてひときわ目を引く内気な令嬢がいた。道中、蜜柑の山が広がる初冬の伊豆の景色に他の乗客や子供たちが沸き立ち、興奮に包まれる中、令嬢だけは微動だにせず、外界から遮断されたかのような空虚な表情を湛えて座り続ける。作者はそんな彼女の姿に奇妙な焦燥を感じ、車内の沈黙と対照的な外の景色を描く。
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私達が、小田原から、熱海行きの、軽便鉄道に乗り込んだ時も、その一行と一緒になった。
その一行は、新橋から発った私達の二等車へ品川あたりから、始めて入って来た人達であった。重厚な顔付をして、堅く洋服に身を包んだ老紳士のあとに高貴な衣服の裾を捌いて四十先位いな夫人らしい女が続き、次に青いショールをした十九か二十程の令嬢、その後に令嬢の長い袖を、支える様にして腰元と見える黄色く骨立った中老女、それからは、三四人の十歳前後の学校の服を着た男の子が、どやどやと乗り込んで、皆、這入って来た順に、私達の反対の側に腰を下した。
が、一寸間を置いて、あわただしく車内へ馳せ込んだ男は、先の紳士と同年輩らしい少し古びた洋服着の、一見して一行の家扶であることが分った。家扶は、何か云って紳士夫妻に二三度頭を下げるとまた一たん車から下りて、今度は、かなり厖大なトランクを二つ担いで来て、それぞれの位置にそれを置いて、自分は、一行の一番端れに老紳士と並んで坐り、頻りに何か話し初めた。
私の注意は、一行の真中に坐る夫人と令嬢に一番多く集まった。夫人は、いかにもよく整った面長な中高な顔に丸髷の両鬢を張って年にしては少し地味な柄の着物の襟を、幾枚も張り重ねた様に見せ、何故か、厚い毛皮のショールは膝の上の手に捲き付けている。