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TORENDIA

にが手と耳たぶの穴

本文約3,200字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

蛇を自在に操る力を持つとされる「にが手」や、耳たぶに窪みや穴がある人物に備わるという特殊な能力について考察する。特定の地域で信じられているこれらの伝承は、外見上の特徴と呪術的な力の関連を示唆する一方で、時代とともにその意味や能力に対する信頼が薄れ、単なる身体的特徴として扱われる傾向がある。日本各地に残るこれらの言伝や俗信を資料として収集し、その由来や変遷を解き明かす必要性を論じている。

柳田國男

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🎧 にが手と耳たぶの穴 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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この現象は今ちやうど消えかゝつて居る状勢と察せられるから、まだ年よりたちに話してもらへるうちに、もう少し資料を集めて置きたい。前囘に報告した島根縣邑智郡の例の他に、鹿足郡の方には又斯ういふ話もある。田植に苗を束ねた藁、即ちナヘデ・ナウバ等といふものを、非常に尊重して粗末な取扱ひをせぬのは、全國一般の風習と謂つてもよく、たとへば其束の輪になつたまゝのまん中へ植ゑた稻は、成長してから大きな災ひをするなどといふ言ひ傳へは、どこにでも有つた樣だが、この地方でも田植のとき、後退りをしつゝ誤つてこの苗束を泥の中へ踏み込んだときは、急いでニガテ・ニガテ・ニガテと三べん唱へた。斯うして置けば障りは無いが、もしも忘れて其まゝに過ぎると、必ず足痛を起すものと信じられて居た(郷土研究二卷八號)。多分は苦手の人ならば其害を受ける虞れが無いといふ説があつた爲だらうと思ふが、邑智郡の方ではもうさういふことを言はぬさうである。

播州の赤穗郡などでは、苦手は呪力のある手で、腹痛を撫でると治り、又魚を捕るにも獲物が得やすいと謂つて居たさうだが(高田十郎氏記録)、一方に又石見のやうな、受身の方の力もあつたものかどうかはまだ知られて居ない。三河の豐川流域でいつて居るニガ手も特別の素質で、手の筋又は手の形でよくわかるといふ。是には種類があつて、蛇の苦手といふのは捕へると蛇がおとなしく、何の害をもすることが出來なくなる手だといふが(三州横山話)、其他にはまだどういふ特徴があつたものか、是ももう明らかで無い。恐らく蝮捕りのやうな冒險でもしないと、この能力があまり目に立たず、自然に是ばかりが有名になつたものであらう。信州松本地方のにが手などは、もう蛇取り以外には應用が無いやうなことを謂つて居る。さうして苦手の人を見ると、蛇が動けなくなり自由に捕られるといひ、その苦手の人といふのは、手の指が總まむし指だから誰にもわかるといふことは(郷土研究四卷八號)、東京附近でも聽くことであるが、多分元はたゞ普通の蛇がつかまるといふだけで無く、蝮を押へても蝮が咬まないとまで、信じられて居たものと思ふ。

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