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TORENDIA

文房具漫談

本文約3,900字 ・ 読了時間 約8分

あらすじ(AIが作成しました)

万年筆を使用せず、日本紙と毛筆、あるいは西洋紙と鉛筆を使い分ける筆者が、それぞれの道具に対する自身のこだわりを綴る。筆者は太く濃い字を好み、書き損じを塗り潰す際の効率や静寂な執筆環境を重視するため、万年筆よりも毛筆が自身の執筆スタイルに合致していると説く。さらに、用紙の手刷りや旅行時の準備など、創作活動を支える道具選びや工夫を具体的に述べ、職業上の必要性としてのこだわりを語る。

谷崎潤一郎

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🎧 文房具漫談 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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私は久しい以前から万年筆を使つたことがなく、日本紙と西洋紙と、二た通り原稿用紙を作つておいて、日本紙の時は毛筆、西洋紙の時は鉛筆を使ふやうにしてゐる。これは趣味と云ふこともあるのだが、私の場合は、寧ろ実際の上の必要が然らしめたのである。元来万年筆は墨を磨つたり含ませたりする手間がないだけ、毛筆よりはずつと速く書ける訳だが、不幸にして私には、此の万年筆の持つ長所が全く何の役にも立たない。なぜかと云ふと、私は非常に遅筆であつて、一行書いては前の方を読み返したり、立ち上つて室内を歩き廻つたり、茶を飲んだり一服吸つたりして、徐ろに考へながら後をつゞける。だから墨を磨るとか含ませるとか云ふ手数は、全然問題でない。却て何かさう云ふ仕事があつた方が、空想の時間を遣るのに都合がよい。つまり、手が間に合はぬ程文章が早く書ける人は、万年筆の長所を利用することが出来るが、私のやうな者には全体を書き上げる時間の上から云つて、万年筆も毛筆も選ぶ所はないのである。

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