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TORENDIA

二月堂の夕

本文約2,900字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

奈良の二月堂で、お水取りの参詣客を前に、講中と思われる婆さんたちが御詠歌にあわせて独特の踊りを披露する様子を描く。派手な襦袢を纏い、大道芸のように振る舞いながら踊る一人の婆さんの道化た姿と、対照的に地味な木綿姿で真面目に踊る別の婆さんたちの集団を対比させ、古都の寺院における信仰と世俗が入り混じった独特の情景を綴る。著者はそれらの舞に自身の母や伯母の面影を重ね、穏やかな感傷を抱きつつ夕闇に消えゆく光景を見守る。

谷崎潤一郎

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🎧 二月堂の夕 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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奈良の二月堂のお堂の下で、大勢の見物人が垣を作つて一人の婆さんの踊りを踊るのを眺めてゐる。婆さんは五十四五ぐらゐで、メリンス友禪の色のさめた長襦袢一つに、紺のコール天の足袋はだしになり、手には花やかな舞扇を持つて舞つてゐる。婆さんのうしろには、かう云ふ古い上方のお寺でなければ見られない、優雅な物さびた土塀がある。その塀の壁に阿彌陀樣だか如來樣だか、何か知れない小さな御佛の繪像を懸け、チーン、チーンと、巡禮のやうに鈴を鳴らしつつ唄ふのにつれて、婆さんはしきりに踊るのである。「ちゝはゝの惠みも深き粉河寺、………」文句は違ふが、唄の節廻しはあの御詠歌によく似てゐる。此の唄を、今も云ふやうに鈴を振りながら唄つてゐるのは、又別な二人の婆さんと、三十恰好の年増である。その中の一人の婆さんは、黒縮緬の紋附を羽織つた、でつぷり太つた元氣の好さゝうな人柄であるが、とき/″\見物の方へ扇をさし出して、「どうか皆さん、お志を投げてやつて下さいましよ」と云ふやうな意味を、私には眞似は出來ないけれど、此の地方特有の、柔和であつて何處かずるさうな心持のする言葉で云ふ。

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