自然の恵み
本文約9,100字 ・ 読了時間 約19分
あらすじ(AIが作成しました)
自然界の精巧な構造と美しさを雪の結晶を通して綴る随筆。大気中で水蒸気が凝結し、結晶核を芯として氷晶へと成長する過程を解説する。地表へ降り注ぐまでの環境によって様々な形状をとる六花の結晶は、物理的な観察だけでなく、その造形的な美しさで人を魅了する。科学技術の進展による観察方法の改善や、偶然から発見された新しい撮影手法により、結晶が持つ本来の構造と神秘的な美しさを明らかにしていく過程を収める。
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われわれは大きい自然の中で生きている。この自然は、隅の隅まで、精巧をきわめた構造になっている。その構造には、何一つ無駄がなくて、またどんな細かいところまでも、実に美しく出来上がっている。
寺田先生がかつて、どんなに精巧につくられた造花でも、虫眼鏡でのぞいてみると汚らしいが、どんなつまらぬ雑草の一部分でも、顕微鏡でみると、実に驚くほど美しいということを書いておられる。これは非常に意味の深い言葉であって、自然のいろいろな物質、それは生命のあるものまでも含めての話であるが、そのものの深い奥底にかくされた造化の秘密には、不思議さと同時に美しさがある。そしてその不思議さと美しさとにおどろく心は、単に科学の芽生えばかりではなく、また人間性の芽生えでもある。
こういう自然のいわば科学的の美と神秘とを、最もよく示す代表的なものとして、しばしば雪の結晶が例にひかれる。そしてこの例は、いかにも適切な例である。それで雪の結晶のことを、こういう自然の、いわば精神的な意味での恵みという立場から、少し話してみよう。もっとも雪の話は、今までに何度も書いたことがあるので、雪の結晶そのものの説明、例えば水蒸気の昇華作用で出来た氷の結晶が即ち雪であるというような話は、今回は略すことにしよう。ただ数年前まではよくわかっていなかった結晶のかくのことだけは、一寸書いておく必要がある。