エリセーフ氏
本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
ハーバード大学で極東美術を教えるエリセーフ氏は、かつて東京帝国大学で国文学を専攻し、夏目漱石に師事した経歴を持つ。渡米した著者は、ボストンで再会した彼と語り合い、日本への深い愛着と憧憬を耳にする。常に競争に晒されるアメリカの生活に疲弊を感じる彼は、銭湯でくつろぐような日本独自の生活様式や心の安らぎを称賛する。本書は、異文化を経験した知識人を通じ、文明社会の効率と精神的な豊かさの対比を綴る随筆である。
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ハーバード大学の極東美術の主任教授に、エリセーフ氏という人がある。東大の文学部卒業、国文学を専攻したという変った学者で、その頃漱石のお弟子の一人であった。
若い頃は、小宮(豊隆)さんなどの悪友仲間だったそうで、小宮さんからもぜひ訪ねるようにすすめられた。私も二十年前に、パリのサツマ会館の管理者としてのエリセーフ氏を知っていたので、今度の渡米には、久しぶりの邂逅を楽しみにしていた一人である。
事実、アラスカ、アメリカの西部、カナダと、忙しい旅行をした挙句、落着いたボストンの街に着いた時は、一寸ほっとした。そしてエリセーフ氏を真っ先に訪ねた。
エリセーフ氏も非常に喜んで、有名なボストンの美術館を案内したり、オルコット夫人の家の近くにある料理店で、劒魚を御馳走してくれたり、大いに歓待してくれた。そして映画に出てくるようなアパートの一室で、二晩ばかり、おそくまでいろいろな話をした。
エリセーフ氏は、東大の卒業論文に『芭蕉の研究』を書き、菊五郎について踊りも習ったことがあるという先生である。青年エリセーフ君が、振袖を着、かつらをかぶった舞台姿の写真が、壁にかかっているのだから、フジヤマや日光の話をしたわけではない。
話は皆面白かったが、そのうちでも一番面白かったのは、日本へ憧憬に近い感情を吐露された点である。新しいオーズモビルをドライブし、宮殿のようなアパートに住んでいて、日本の貧乏生活を讃美するのだから、話が一寸かわっている。
もっともハーバードの主任教授であるから、これくらいの生活をするのは当然であり、また『三四郎』時代の漱石の弟子として、当時の日本にあこがれを持つのも、うなずけないことではない。しかしエリセーフ氏の真意は、『三四郎』時代の日本だけにあるのではなさそうであった。