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TORENDIA

青春物語

本文約73,300字 ・ 読了時間 約147分

あらすじ(AIが作成しました)

明治末期の文学青年であった筆者が、自身の回想を交えつつ中学時代の親友である恒川陽一郎や大貫晶川、文壇での人間関係を綴る。東京での学生生活、文学への情熱、そして夭折した友との記憶を辿りながら、若き日の苦悩や喜び、京阪の地で過ごした思い出を鮮やかに描き出す随筆。当時の文壇の空気や自身の青春時代を、時を経て改めて振り返ることで、過ぎ去りし日々への深い郷愁と無常観を表現している。

谷崎潤一郎

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大貫晶川、恒川陽一郎、並びに萬龍夫人のこと

十年たてば一と昔と云ふが、私が初めて文壇へ出てからもう彼れ此れ二十三四年になる。私も此れでまだ懐旧談などをする歳ではないんだが、近頃の「スバル」を読むと、我が中学の同窓である吉井勇君なども、しきりに青年時代のことを懐かしがつて書いてゐるやうだ。辰野隆君も矢張中学から一高、赤門を通じての古い友だちだが、「改造」だか「中央公論」だかへ出た同君の「スポーツ漫談」なるものを読むと、中学時代の私のことが一寸引き合ひに出されてゐる。同君は私のことを「秀才谷崎」と呼んだりしてゐるが、さう云ふ辰野君のあの時分の風貌を想ふと、まことに今昔の感に堪へない。何しろ辰野君と云つたら、当時貴公子の美少年共が校内に徒党を組んでゐた中の一人で、ハイカラで、快活で、スポーツ好きで、才気煥発ではあつたが、怠け者で、腕白で、成績はあまり芳しい方でなく、一高の入学試験に「石鹸の製法を記せ」と云ふ有機化学の問題が出た時、「石鹸はうどん粉を固めて作る」と云ふ答案を出した豪の者だつた。―――辰野は出鱈目に書いたのだが、事実安物の石鹸にはうどん粉を交ぜることが後で分つたのは大笑ひだつた。―――されば誰か此の人が他日仏文学の権威となることを予想しようぞ。夫子自身も最初は法科を志したくらゐだから、恐らく当時文学者として世に立たうなどゝは思つてもゐなかつたであらう。

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