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TORENDIA

寅彦の作品

本文約1,800字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

明治大正期の知識人、寺田寅彦の随筆群を論じる。本書は、東洋的教養、西欧的学識、近代科学の三要素を一身に融合させた寅彦の精神の在り方を解説する。抒情詩的な初期の散文詩、病床での心境を綴った作品、西欧文化への視点や日本への愛情を示す論考、そして連句の手法を用いた独自の映画論まで、岩波文庫の随筆集をもとにその多面的な全貌と魅力を紹介するガイドとなっている。

中谷宇吉郎

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明治大正の時代については、いろいろな見方もあるが、日本民族が、精神的の飛躍をした時代であることには、間違いがない。西欧文明を急速に摂取して、日本が近代世界の仲間入りをした時代である。

この時代の文化人は、今日の文化人とは、教養の質と量とにおいて、大分違うようである。鴎外や漱石が、すぐ例に出されるが、日本人としての精神的骨髄が非常にしっかりしていて、その上に、西欧文明の深い学識を身につけていた。

寅彦先生にも、この傾向が強く見られる。漱石の評語「神経質な仙人」というのが、まさにあたっている。神経質は、西欧の我の自覚の産物であり、仙人は神仙道を通じての東洋精神の具象である。その上寅彦には、同時代の知識人の教養に付加するもの、即ち科学があった。

今から考えてみても、依然として不思議である。専門の物理学以外は、いわば副業的教養であるが、その学識が私たちの常識を逸脱している。外国語は、英仏の外に、電車の中でカントの純粋理性批判をドイツ語で読み、夕食後ツルゲネーフをロシア語で読んでおられた。

東洋的教養は、漢学よりもむしろ、純粋に日本的なものに傾いていた。明治以後において、俳諧を最も深く味わった人は、寅彦かもしれない。「心の涼しさを現わす言葉」として、風流を解していた。

漱石を通じてかと思われるが、英国流のユーモアも、何気ない形で、方々にはいっている。ジャーナリズムの魔術を論じて、「例えば忠犬美譚で甲新聞が人気を呼ぶと、あとからあとからいろいろな忠犬物語が方々から出て来て、日本中犬だらけになり……」といった調子である。

日本の教養、西欧の文化、近代の科学、とこの三要素が、一人の人間の中に融合し、その全体を柔らかい情緒と深い愛とで包んだものが、寅彦の作品である。鴎外や漱石が、半ば古典的に感ぜられる若い読者には、寅彦がよく、明治大正の精神の一つの型を物語ってくれるであろう。

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