物心一如の科学
本文約9,800字 ・ 読了時間 約20分
あらすじ(AIが作成しました)
原子力という新たな勢力が世界中で注目される中、その本体を理解している者は少ない。本書は、「物質」と「勢力(エネルギー)」という概念を科学的に紐解き、物質の実質が質量として不変であるという従来の考え方を整理する。さらに、物質の一部がエネルギーに転換される原子物理学の進展を踏まえ、両者の和が不変であるという自然界の実体について論じ、哲学や禅の思想との通底点を考察する。
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この頃の一番大きい話題は、原子力である。原子爆弾の出現以来、世界中の人間が、原子力の恐怖病にかかった傾向があった。ところが一方最近になって、原子力の平和利用が賑やかに唱えられて来て、原子力時代というような言葉が、盛んに使われるようになった。
確かに、人類は、今新しい勢力の世界にはいりつつある。今日の文明は、一昔前、たとえば徳川時代などに較べると、まるで様相がちがっている。その一番大きい要素は電気が使えるようになったからである。
電燈や電車はもちろんのこと、ラジオやテレビなど、昔の人の言葉でいえば、千里眼や順風耳が、現実に現われて来た。それ等は全部、電気のはたらきを利用したものであって、電気が無かったら、人間の生活も、ものの考え方も、今日の姿とは、大分違ったものになったであろう。
電気という新しい勢力が発見され、それを人間が自由に駆使出来るようになっただけで、これだけのちがいが出て来たのである。それで新しい原子力という勢力が出て来て、それを人間が自由に使えるようになれば、次の新しい時代が招来されることも、当然と言えよう。
それで原子力が、今のところブームになっていて、毎日の新聞やラジオで、原子力という言葉に接しない日は、一日もないといって、決して過言ではない。ところが可笑しなことには、それほど皆の口の端に上る原子力について、その本体を、たいていの人はほとんど知らないでいる。原子力は物質が勢力に変化したものだとよくいわれるが、それがどういう意味であるかと聞くと、答えられない人が、大多数である。
この「原子力は、物質が勢力に変化したものである」という言葉には、間違いがなく、そのとおりである。しかし物質はものであって、或る実質のあるものである。ところが勢力は、力のようなもので、これはものではない。物と物でないものとが、本当は同じものであって、一方が他に移り変われるというのであるから、理解されにくいのが、当然である。