見落されている急所
本文約5,000字 ・ 読了時間 約10分
あらすじ(AIが作成しました)
藤木稠子の随筆「白道」は、過去七八年間にわたる自身の過酷な文学修業の軌跡を綴る。経済的困窮により職を転々としつつ創作を志す著者の姿を通じ、生活から文学を切り離して考えることの危険性と、現実の社会生活を突き詰めることの重要性を論じる。さらに、勤労する大衆の視点に立ち、自らの置かれた現実と文学の関わりを見極めることの必要性を説く内容である。
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九月号の『婦人文芸』に藤木稠子という作者の戯曲「裏切る者」という一幕ものがのっていた。私は雑誌を開いたときその表題を見たのであったがつい用事に追われ、そのときはゆっくり作品を読む機会を失ってしまった。
ところが今日、ある偶然のことから、「白道」という随筆の原稿を読むめぐりあわせになり、その随筆の作者が戯曲と同じ作者藤木稠子さんであることから、私は改めて戯曲をも読み直し、さまざまの深い感想に動かされたのであった。
「白道」で、作者は「私の過去の小さな生活記録」として、『婦人文芸』に「裏切る者」の掲載されたよろこびにつれ過去七八年間に亙る自身の文学修業の道を回想しているのである。農村の小地主の娘に生れ、物わかりのよい家兄のおかげで東洋大学にはいった作者が、その上級生の頃から文学的創作の慾望を感じはじめた。そして卒業後は自活のために非常に種々の職業を経験しつつ、現在では「エプロンの裾をぬらして台所にはいずり廻る仕事」をしてやっと食いつなぎながらも、猶創作の勉強を続けているという、文学のために思いきわまった一人の女の閲歴が書かれているのである。
どんなことをしても書くことだけは捨てまいとする作者の一念こった心持が理解されるために、私には一層この率直にかかれた随筆の内容が文学修業一般の根本的な問題にもふれて、多くの感想を呼びさました。
「白道」によると作者は、書くことをすてまいとして、これまであらゆる職業を中途ですてて来ている。東洋大学を卒業してすぐ官立大学の図書館に働くことになったが、「執務においては常に専門家であることを要求され、又満足に職をつづけて行く以上は専門家の域にまで進まなくてはならない」「このままでいたならば、私は遂に何もかもなくなって了う。」そう焦慮して、作者は「思い切って職を抛擲し、専心文学に精進しようと思い立った。」