ドミノのお告げ
本文約20,600字 ・ 読了時間 約42分
あらすじ(AIが作成しました)
喘息で苦しむ父と、肺結核で入院中の兄を抱える家庭で、雪子は血を売って得た金で古美術品を買い、逃げ場所を求める。戦時下の困窮や家族の病という重い現実の中で、母の宗教的な祈りや弟のアルバイトへの苦闘が交錯する。雪子は自身の生を賭け事の中に燃やし、束の間の昂揚に自己の存在を確かめる。死と隣り合わせの閉塞的な日常において、人間として生きる意味を問い続ける主人公の葛藤を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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或る日。――
足音をしのばせて私は玄関から自分の居間にはいり、いそいで洋服をきかえると父の寝ている部屋の襖をあけました。うすぐらいスタンドのあかりを枕許によせつけて、父はそこで喘いでおります。持病の喘息が、今日のような、じめじめした日には必ずおこるのです。秋になったというのに今年はからりと晴れた日はまだ一日もなく、陰気な、うすら寒い、それで肌に何かねばりつくような日がつづいていました。
「ただいま帰りました。おそくなりまして。いかがでございますか……」
父は黙って私の顔をみつめております。私は父のその眼つきを幾度もうけて馴れておりますものの、やはりそのたびに恐れ入る、という気持になって、丁寧に頭をさげます。そして、ぎごちなく後ずさりをして部屋を出ました。
つめたい御飯がお櫃の片側にほんのひとかたまり。それに大根の煮たのが、もう赤茶けてしるけもなくお皿にのっております。土びんには、これもまたつめたい川柳のお茶がのこりすくなくはいっております。私はいそいでお茶漬けにして食事を済ませました。胃のなかに、かなしいほどつめたいものが大いそぎでおちこんで行った、という感じがします。その時、母が父の部屋にはいったらしく、二人の会話がきこえて来ました。私のことなのです。
「雪子は今ごはんのようですね。九時になるというのに」
「何ですかねえ、夕方から出ちまって、家のことったら何一つしようとしないで」
「あなたがさせないからいけないのです」
「申し訳ございません」