TRENDIA CLASSIC

ドミノのお告げ

久坂葉子

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或る日。――

足音をしのばせて私は玄関から自分の居間にはいり、いそいで洋服をきかえると父の寝ている部屋の襖をあけました。うすぐらいスタンドのあかりを枕許によせつけて、父はそこで喘いでおります。持病の喘息が、今日のような、じめじめした日には必ずおこるのです。秋になったというのに今年はからりと晴れた日はまだ一日もなく、陰気な、うすら寒い、それで肌に何かねばりつくような日がつづいていました。

「ただいま帰りました。おそくなりまして。いかがでございますか……」

父は黙って私の顔をみつめております。私は父のその眼つきを幾度もうけて馴れておりますものの、やはりそのたびに恐れ入る、という気持になって、丁寧に頭をさげます。そして、ぎごちなく後ずさりをして部屋を出ました。

つめたい御飯がお櫃の片側にほんのひとかたまり。それに大根の煮たのが、もう赤茶けてしるけもなくお皿にのっております。土びんには、これもまたつめたい川柳のお茶がのこりすくなくはいっております。私はいそいでお茶漬けにして食事を済ませました。胃のなかに、かなしいほどつめたいものが大いそぎでおちこんで行った、という感じがします。その時、母が父の部屋にはいったらしく、二人の会話がきこえて来ました。私のことなのです。

「雪子は今ごはんのようですね。九時になるというのに」

「何ですかねえ、夕方から出ちまって、家のことったら何一つしようとしないで」

「あなたがさせないからいけないのです」

「申し訳ございません」

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