幾度目かの最期
本文約31,300字 ・ 読了時間 約63分
あらすじ(AIが作成しました)
熊野の小母へ宛てた手紙の形式をとる本作は、ある男性への抑えがたい愛情と、その関係に苦しむ自身の心情を赤裸々に綴る告白である。自身の病や過去の過ち、そして破局への予感を抱えながら、雪深い地への旅立ちを考える主人公。創作と現実の境界で揺れ動く女性が、自らの罪や葛藤を吐露し、死の影を意識しつつも切実な愛を書き留めていく、極めて個人的な心の軌跡を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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熊野の小母さんへ。
あなたには四、五年も昔から、よくお便りしてます。けれど、こんな殺風景な紙に、宿命的な味気ない字を書くことは、はじめてです。いつも、信州の紙とか、色のついたアート紙に、或いはかすれた筆文字で、或いは、もっと、面白くきれいな字――いやこれは、おこがましいかな。でも、あなたは、私の字を好んでくれました。――で、お便りしたものです。何故、この紙を選んだか、おわかりですか。実は、あなたにたよりしている気持で、私は、おそらく今度こそ本当の最後の仕事を、真剣になって綴ろうというのです。これは富士正晴氏の手に渡るでしょう。そして、彼の意志かあわれみで同人雑誌のVILLONか、VIKINGに印刷されるでしょう。その活字が、あなたの手許におくられるだろうと思います。VIKINGの同人、宇野氏が、あなたを御存知だから。私はこれを、二十二日、つい六日前に書いた〈鋏と布と型〉という舞台のものを、もう一度、あらためて、私の最後の仕事にするつもりです。これは、小母さんに関係のないことだけど、その芝居は、もし上演されるなら、私が暫くなりとも籍をおいて、既に愛着を抱いていた、現代演劇研究所で上演してほしいものです。役は、マネキンを川本さんに、彼女は音楽的な感覚をもっているし、舞踊が出来るんだ。ついでに、私ののぞみもつけたしたら、おどけたアクションをつけてほしいこと。デザイナー諏訪子は、私のはじめての芝居〈女達〉の、久良良をしてくれた前田さんに、音楽は、徳永さんにしてほしい。それから、演出は、くるみ座の北村さんが、してくれるなら、ぜひしてほしいのだ。私がするつもりだった。彼は、おそらくやってくれるだろう。この原稿も(芝居の)VILLONかVIKINGに、富士さんは、のっけてくれるだろう。
小母さん。この原稿全部、あなたの興味ないものかも知れないことだけど、とりあえずよんで下さい。