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TORENDIA

書翰

本文約1,700字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

横光利一が妻君子へ宛てたこの私信は、夫婦生活における互いの不満や疑念をめぐる葛藤を綴る。妻の溜息が自身の愛情を損なうと訴え、忍耐の必要性を説く夫は、自身の過去の交友関係に対する妻の嫉妬や追及を激しく否定する。学生時代の山中での笛の記憶を引き合いに出しつつ、自身の純粋な愛情を理解せず不信感を抱き続ける妻に対し、夫は翻弄されながらも家庭の幸福を願う苦悩と切実な思いを吐露する。

横光利一

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🎧 書翰 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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50 大正十二、三年(推定) 横光君子宛

くれぐれも云つて來たことだが、どうか、僕に滿足してもらひたい。滿足出來ないのは分つてゐる。しかし、人間と云ふものは、どんな境遇へいつても、どんな人間に逢つても必ず、それ相當な不滿があるに定つてゐるのだから。あなたが溜息をつくときの心理が分ると、僕にも、猛然と反抗心が起つて、あなたのそのときの心理のやうな氣持ちが湧き上つて來る。俺に滿足してくれないのだ。さう思ふと、愛したくても愛情が出ない、侮辱されたやうな氣がするのだ。

僕はあなたを妻にしてありがたいと思つてゐるのだ。どんな顏をしてゐるときでも、さう思つてゐるのである。それも知らないで、不愉快な溜息されるやうな氣持ちになられては、生活して行く氣が起らない。僕があなたでなければいけないのだと思つて、あなたを妻にすることが出來、あなたが僕を愛してくれて、さうして僕の妻になつてくれたのなら、もうこれ以上僕にとつてはありがたいことはないのである。誰でもいづれ不滿はあるにちがひないのだ。それを忍耐してくれて、初めてありがたいのである。愛情が、腹のままに湧き出ることが出來るのである。こんなことはもう書きたくはない。やめよう。とにかく、お願ひだから、溜息なんかよして貰ひたいものである。

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