TRENDIA CLASSIC

最後の獨裁者

中谷宇吉郎

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アルゼンチンのペロンが遂に失脚した。ほとんど最後の獨裁者といってよかったペロンも、到頭多年に亙る獨裁政權から追放されて、危く國外に身をもって逃れる悲境に陷った。前にこの話の中に、アルゼンチンのインフレの話を書いたが、あれから一月も經たないうちに、最後の破局に到達したわけである。

今回のクーデターは、カソリック彈壓の餘波が、多年の軍部の不滿を爆發に導いたといわれている。そういう意味では、中世紀的な宗教鬪爭の匂いがあるが、本當の原因は經濟的なところにあるのではないかと思われる。

ペロンが獨裁者としてアルゼンチンに君臨出來たのは、二つの強力な基盤をもっていたからである。一つは組合員六百萬と誇稱した勞働組合であり、いま一つは陸軍の高級將校たちであった。前回の海軍によるクーデターが失敗に歸したのは、陸軍がペロン側についたからである。ペロンがこれ等の擁護者を獲得したのは、主として利をもって誘った傾きがあった。例えば、陸軍の高級將校たちには「特別許可」を與えて、自動車を一臺無税で輸入する權利を與えた。それで將校たちは、アメリカから一臺三千弗の自動車を輸入して、即日闇で一萬弗に賣ることが出來た。

勞働組合の方は、もっと大規模であって、獨裁者の庇護のもとに、たびたびストライキを行い、その都度賃金を飛躍的に値上げさせて來た。それで今までシャツ一枚も持てなかった勞働者たちには、ペロン、とくに勞働者の女神ペロン夫人は、鑚仰の的であった。もともと貧富の差の激しいところで、勞働者たちの生活水準を上げるという目的だけならば、ペロンの施策は正しかった。しかしペロンは、自己の獨裁基盤を作り上げるために、勞働組合を「買收」した點において謬っていた。即ち經營を無視して賃上げを斷行したのである。

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