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TORENDIA

疾中

本文約4,700字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

重い病に伏した詩人が、血を吐きながらも病床から見える青い空や清らかな風の美しさを綴る。本作は、死の気配が色濃く漂う中で、自身の肉体や存在について内省し、苦痛や熱、散乱する意識の中で菩薩や仏の教えに思いを馳せる過程を描く。時として訪れる恐怖や死への戸惑いを受け入れつつ、自らの生と死を宇宙的な法則や法華経の真理の中に位置づけ、最後には静かに己の運命を見つめ直そうとする姿が記されている。

宮沢賢治

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🎧 疾中 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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病床

たけにぐさに

風が吹いてゐるといふことである

たけにぐさの群落にも

風が吹いてゐるといふことである

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眼にて云ふ

だめでせう

とまりませんな

がぶがぶ湧いてゐるですからな

ゆふべからねむらず血も出つづけなもんですから

そこらは青くしんしんとして

どうも間もなく死にさうです

けれどもなんといゝ風でせう

もう清明が近いので

あんなに青ぞらからもりあがって湧くやうに

きれいな風が来るですな

もみぢの嫩芽と毛のやうな花に

秋草のやうな波をたて

焼痕のある藺草のむしろも青いです

あなたは医学会のお帰りか何かは知りませんが

黒いフロックコートを召して

こんなに本気にいろいろ手あてもしていたゞけば

これで死んでもまづは文句もありません

血がでてゐるにかゝはらず

こんなにのんきで苦しくないのは

魂魄なかばからだをはなれたのですかな

たゞどうも血のために

それを云へないがひどいです

あなたの方からみたらずゐぶんさんたんたるけしきでせうが

わたくしから見えるのは

やっぱりきれいな青ぞらと

すきとほった風ばかりです。

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〔ひるすぎの三時となれば〕

ひるすぎの三時となれば

わが疾める左の胸に

濁りたる赤き火ぞつき

やがて雨はげしくしきる

はじめは熱く暗くして

やがてまばゆきその雨の

杉と榊を洗ひつゝ

降りて夜明けに至るなれ

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〔熱たち胸もくらけれど〕

熱たち胸もくらけれど

白き石粉をうちあふぎ

にがき草根をうち噛みて

などてふたゝび起たでやむべき

[#改ページ]

〔わが胸いまは青じろき〕

わが胸いまは青じろき

板ひとひらに過ぎぬらし

とは云へかなたすこやけき

億の呼吸のなべてこそ

うららけきわが春のいぶきならずや

[#改ページ]

熱またあり

水銀は青くひかりて

今宵また熱は高めり

散乱の諸心をあつめ

そのかみの菩薩をおもひ

息しづにうちやすらはん

たゆたへる光の澱や

野と町と官省のなか

ひとびとのおもかげや声

ありとあるしじまとうごき

なべてよりいざ立ちかへり

散乱のわが心相よ

あつまりてしづにやすらへ

あしたこそ燃ゆべきものを

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〔そのうす青き玻璃の器に〕

そのうす青き玻璃の器に

しづにひかりて澱めるは

まことや菩薩わがために

血もてつぐなひあがなひし

水とよばるゝそれにこそ

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