入れ札
本文約8,700字 ・ 読了時間 約18分
あらすじ(AIが作成しました)
天保初年の秋、関所を破り追われる国定忠治と子分たちは、信州へ向かう山中で休息をとる。一人で逃亡を決意した忠次は、情に流されず恨みっこなしで別れるため、同行する三人を選ぶ入れ札を提案する。子分たちは入れ札で同行する者を選び、忠次と別れてそれぞれ落ち延びていく。その中で、かつて賭場を仕切った過去を持つ老分九郎助は、誰からも選ばれなかった現実に直面し、自身の惨めな姿を痛感して激しい後悔と絶望にさいなまれる。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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人物
国定忠治
稲荷の九郎助
板割の浅太郎
島村の嘉助
松井田の喜蔵
玉村の弥助
並河の才助
河童の吉蔵
闇雲の牛松
釈迦の十蔵
その他三名
時所
上州より信州へかかる山中。天保初年の秋。
情景
秋の日の早暁、小松のはえた山腹。地には小笹がしげっている、日の出前、雲のない西の空に赤城山がほのかに見える。幕が開くと、才助と浅太郎とが出てくる。二人ともうす汚れた袷の裾をからげ、脚絆をはき、わらじをつけている。めいめい腰に一本の長脇差をさしている。浅太郎の方は、割れかかった鞘を縄で括っている。二人が舞台の中央にかかった時、後ろから呼ぶ声が聞える。
呼ぶ声 おうい、浅兄い、待てえっ。 浅太郎 おうい、何じゃい。 呼ぶ声 おうい、おうい。浅兄い。 浅太郎 おうい、何じゃい。 呼ぶ声 少し足を止めてくれ。あんまり離れるな。 浅太郎 ようし、分かったぞ、待っているぞ。(そばを振り向いて、才助に) おい才助、一休みしようじゃねえか。 才助 大丈夫かなあ、ここいらで足を止めていて。 浅太郎 大丈夫だとも。木戸の関を破ったのが、昨夜の五つ頃だ。あれから歩き通したもの。もうかれこれ十里近くも突っ走ってらあ。 才助 みんなよく足がつづいたものだ。 浅太郎 俺たちは、これぐらいのことではびくともしねえが、九郎助や牛松などの年寄は、あれでいい加減へこたれていらな。 才助 だがよく辛抱してついて来たなあ。 浅太郎 常日頃口幅ったいことをいっている連中だ。ついて来ずにはいられめえじゃねえか。 (二人が話している間、九郎助と弥助、並んで出て来る。九郎助は五十に近き老人、弥助は四十前後)