TRENDIA CLASSIC

入れ札

菊池寛

1 / 14

人物

国定忠治

稲荷の九郎助

板割の浅太郎

島村の嘉助

松井田の喜蔵

玉村の弥助

並河の才助

河童の吉蔵

闇雲の牛松

釈迦の十蔵

その他三名

時所

上州より信州へかかる山中。天保初年の秋。

情景

秋の日の早暁、小松のはえた山腹。地には小笹がしげっている、日の出前、雲のない西の空に赤城山がほのかに見える。幕が開くと、才助と浅太郎とが出てくる。二人ともうす汚れた袷の裾をからげ、脚絆をはき、わらじをつけている。めいめい腰に一本の長脇差をさしている。浅太郎の方は、割れかかった鞘を縄で括っている。二人が舞台の中央にかかった時、後ろから呼ぶ声が聞える。

呼ぶ声 おうい、浅兄い、待てえっ。 浅太郎 おうい、何じゃい。 呼ぶ声 おうい、おうい。浅兄い。 浅太郎 おうい、何じゃい。 呼ぶ声 少し足を止めてくれ。あんまり離れるな。 浅太郎 ようし、分かったぞ、待っているぞ。(そばを振り向いて、才助に) おい才助、一休みしようじゃねえか。 才助 大丈夫かなあ、ここいらで足を止めていて。 浅太郎 大丈夫だとも。木戸の関を破ったのが、昨夜の五つ頃だ。あれから歩き通したもの。もうかれこれ十里近くも突っ走ってらあ。 才助 みんなよく足がつづいたものだ。 浅太郎 俺たちは、これぐらいのことではびくともしねえが、九郎助や牛松などの年寄は、あれでいい加減へこたれていらな。 才助 だがよく辛抱してついて来たなあ。 浅太郎 常日頃口幅ったいことをいっている連中だ。ついて来ずにはいられめえじゃねえか。 (二人が話している間、九郎助と弥助、並んで出て来る。九郎助は五十に近き老人、弥助は四十前後)

菊池寛の他の作品