TORENDIA
芥川の事ども
菊池寛
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🎧 芥川の事ども / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう
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芥川の死について、いろいろな事が、書けそうで、そのくせ書き出してみると、何も書けない。
死因については我々にもハッキリしたことは分らない。分らないのではなく結局、世人を首肯させるに足るような具体的な原因はないと言うのが、本当だろう。結局、芥川自身が、言っているように主なる原因は「ボンヤリした不安」であろう。
それに、二、三年来の身体的疲労、神経衰弱、わずらわしき世俗的苦労、そんなものが、彼の絶望的な人生観をいよいよ深くして、あんな結果になったのだろうと思う。
昨年の彼の病苦は、かなり彼の心身をさいなんだ。神経衰弱から来る、不眠症、破壊された胃腸、持病の痔などは、相互にからみ合って、彼の生活力を奪ったらしい。こうした病苦になやまされて、彼の自殺は、徐々に決心されたのだろう。
その上、二、三年来、彼は世俗的な苦労が絶えなかった。我々の中で、一番高踏的で、世塵を避けようとする芥川に、一番世俗的な苦労がつきまとっていったのは、何という皮肉だろう。
その一の例を言えば興文社から出した「近代日本文芸読本」に関してである。この読本は、凝り性の芥川が、心血を注いで編集したもので、あらゆる文人に不平なからしめんために、出来るだけ多くの人の作品を収録した。芥川としては、何人にも敬意を失せざらんとする彼の配慮であったのだ。そのため、収録された作者数は、百二、三十人にも上った。しかし、あまりに凝り過ぎ、あまりに文芸的であったため、たくさん売れなかった。そして、その印税も編集を手伝った二、三子に分たれたので、芥川としてはその労の十分の一の報酬も得られなかったくらいである。
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