TORENDIA
青木の出京
菊池寛
TORENDIA
青木の出京
本文約21,400字 ・ 読了時間 約43分
あらすじ(AIが作成しました)
銀座のカフェを出た雄吉は、五年ぶりに昔の知人である青木と遭遇する。かつて青木との関わりで人生を左右するほどの痛手を受けた雄吉は、その再会に強い警戒心と憎悪を抱く。青木はかつての傲慢な態度を崩さず、雄吉の今の生活に踏み込むような言動を繰り返す。雄吉は青木の東京滞在が短期間であることを祈りつつ、旧知の桑野のもとへ彼を連れて行くことで、この重苦しい時間から逃れようと画策する。
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一
銀座のカフェ××××で、同僚の杉田と一緒に昼食を済した雄吉は、そこを出ると用事があって、上野方面へ行かねばならぬ杉田と別れて、自分一人勤めている△町の雑誌社の方へ帰りかけた。
それは六月にはいって間もない一日であった。銀座の鋪道の行路樹には、軽い微風がそよいでいたが、塵をたてるほど強いものではなく、行き交うている会社員たちの洋服はたいてい白っぽい合着に替えられて、夏には適わしい派手な色のネクタイが、その胸に手際よく結ばれていた。また擦れ違う外国の婦人たちの初夏の服装の薄桃色や水色の上着の色が、快い新鮮を与えてくれた。
雄吉は食事を済した後ののんびりとした心持に浸っていた。その上、彼はこの頃ようやく自分を見舞いかけている幸運を意識し、享楽していた。長い間認められなかった彼の創作が、ようやく文壇の一角から採り入れられて、今まではあまり見込みの立たなかった彼の前途が、明るい一筋の光明によって照され始めていた。彼の心にはある一種の得意と、希望とが混じりながら存在していた。ことに、彼は自分の暗かった青年時代を回想すると、謙遜な心で今の幸運を享受することができた。
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