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TORENDIA

山椒大夫

本文約21,900字 ・ 読了時間 約44分

あらすじ(AIが作成しました)

人買いに騙され、母と別れた姉弟の安寿と厨子王は、山椒大夫の屋敷で奴隷として働かされる。姉弟の脱出と、母との再会を描く、説話をもとにした物語。

森鴎外

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越後の春日を経て今津へ出る道を、珍らしい旅人の一群れが歩いている。母は三十歳を踰えたばかりの女で、二人の子供を連れている。姉は十四、弟は十二である。それに四十ぐらいの女中が一人ついて、くたびれた同胞二人を、「もうじきにお宿にお着きなさいます」と言って励まして歩かせようとする。二人の中で、姉娘は足を引きずるようにして歩いているが、それでも気が勝っていて、疲れたのを母や弟に知らせまいとして、折り折り思い出したように弾力のある歩きつきをして見せる。近い道を物詣りにでも歩くのなら、ふさわしくも見えそうな一群れであるが、笠やら杖やらかいがいしい出立ちをしているのが、誰の目にも珍らしく、また気の毒に感ぜられるのである。

道は百姓家の断えたり続いたりする間を通っている。砂や小石は多いが、秋日和によく乾いて、しかも粘土がまじっているために、よく固まっていて、海のそばのように踝を埋めて人を悩ますことはない。

藁葺きの家が何軒も立ち並んだ一構えが柞の林に囲まれて、それに夕日がかっとさしているところに通りかかった。

「まああの美しい紅葉をごらん」と、先に立っていた母が指さして子供に言った。

子供は母の指さす方を見たが、なんとも言わぬので、女中が言った。「木の葉があんなに染まるのでございますから、朝晩お寒くなりましたのも無理はございませんね」

姉娘が突然弟を顧みて言った。「早くお父うさまのいらっしゃるところへ往きたいわね」

「姉えさん。まだなかなか往かれはしないよ」弟は賢しげに答えた。

母が諭すように言った。「そうですとも。今まで越して来たような山をたくさん越して、河や海をお船でたびたび渡らなくては往かれないのだよ。毎日精出しておとなしく歩かなくては」

「でも早く往きたいのですもの」と、姉娘は言った。

一群れはしばらく黙って歩いた。

向うから空桶を担いで来る女がある。塩浜から帰る潮汲み女である。

それに女中が声をかけた。「もしもし。この辺に旅の宿をする家はありませんか」

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