美術曲芸しん粉細工
本文約3,200字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
しん粉細工の奇術応用について解説し、稲荷魔術で名高い神道斎狐光が大道でしん粉細工を営んだ際の愉快な逸話を綴る。狐光は通りすがりの女生徒から注文された未知の花・チューリップを創作で造り上げて誤魔化すが、後に実物を確認して研究し直す。翌日、正しい造形のチューリップを並べて女生徒らに振る舞う狐光の姿を描き、以降の舞台で彼が意図的にあえて変なチューリップを作品に混ぜるようになった背景を紹介する。
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しん粉細工に就いては、今更説明の必要もあるまい。たゞ、しん粉をねつて、それに着色をほどこし、花だの鳥だのゝ形を造るといふまでゞある。
が、時には奇術師が、これを奇術に応用する場合がある。しかしその眼目とするところは、やはり、如何に手早く三味線に合せてしん粉でものゝ形を造り上げるかといふ点にある。だから、正しい意味では、しん粉細工応用の奇術ではなくて、奇術応用のしん粉細工といふべきであらう。
さてそのやり方であるが、まづ術者は、十枚あるひは十数枚(この数まつたく任意)の、細長く切つた紙片を一枚づゝ観客に渡し、それへ好みの花の名を一つづゝ書いて貰ふ。書いてしまつたら、受けとる時にそこの文字が見えないために、ぎゆつとしごいて貰ふ。
そこで術者は、客席へ出て花の名を書いた紙を集める。しかし、客が籤へ書いた全部の花を造るのは容易ではない、といふので、そのうちから一本だけを客に選んで貰ふ。が、もうその時には、全部に同一の花の名を書いた籤とすり替へられてある。
これで奇術の方の準備がとゝのつたので、術者はしん粉細工にとりかゝる。まづ術者は、白や赤や青や紫やの色々のしん粉を見物に見せ、
『持出しましたるしん粉は、お目の前におきましてこと/″\く験めます。』
といふ。勿論、しん粉になんの仕掛があるわけではないが一応はかういつて験めて見せる。
『さて只今より、これなるしん粉をもちまして、正面そなへつけの植木鉢に花を咲かせるので御座います。もし造上げましたる鉢の花が、お客様お抜取りの籤の花と相応いたしてをりましたら、お手拍子御唱采の程をお願ひいたします。』
かういつて、しん粉細工をはじめるのである。普通、植木鉢に数本の枝を差しておき、それへ、楽屋の三味線に合せてしん粉で造つた花や葉をべた/\くつゝけて行くのである。が、これが又、非常な速さで、大概の花は五分以内で仕上げてしまふ。
かうして花が出来上ると、客の抜いた籤と照合せる。が、勿論前に記したやうな仕組になつてゐるのだから、籤に書かれた花の名と、造上げた舞台の花とが一致することはいふまでもない。これが、奇術応用の『曲芸しん粉細工』である。